第8話 人の噂も……
「――……つ、疲れたぁ~~~……!」
どうにかこうにか教室まで辿り着くや、それこそ
んで、結局、あの後どうなったかというと――……。
ぎゅっ♡
「(うっ‼)」
「…………」
「あ、あの、こ、琴姉……?」
「えへへ♡」
「あ、アハハ……ハ……」
チラッ。
目の端で捉えたのは、その満々の笑みとは裏腹に、反対側の手の中には先ほどのボイスレコーダーがしっかりと握られている訳で……。
アハハハ、ハァ~~~ッ、世の中、そんなに甘くはないってことね……。
それでも諦めきれずに無駄とは知りつつも、幾度となく
結局、学園へと辿り着くころには、大名行列かよってくらい
挙句の果てには見世物小屋のパンダ同様、スマホで撮影する奴らまで現れる始末……。
そんな
お互いの視線が交錯することコンマ数秒……。
別段、これといって言葉を交わしたでもないにもかかわらず、瞬時に今置かれている俺の現状を把握したのか、生徒会のメンバーにこれまた的確な指示を飛ばし始めたかと思えば瞬く間に事態を鎮静化させてしまった。
そして、事態収束後、
いやはや、その鮮やかな手並みといったら……流石は前生徒会長ってところか。
――……とまぁ、葵先輩が完璧なまでの情報統制を敷いてくれたお陰もあって、何とか事なきを得たわけだが……。
正直、こんなことが今後毎日続いたらと思うと、うぅ、考えるだけでも憂鬱になる。
そんなことを考えつつも一息つく意味でも、教室に上がってくる途中の自販機で買っておいたパック豆乳にストローをぶっ刺し、チューチューと吸い込んでいたところ、
「オ~~ス、陽太ぁ! どしたよ、朝っぱらかやけに
今後についてさてどうしたもんかと悩んでいたところへ、すでに教室へとやってきていたのか、そんな軽口を叩きながら
「んあ? な~んだ、
その言葉通り、普段以上に教室全体がバカに賑わっていて……。
「ん? ああ、それがよぉ~、大久保の奴が忍者を見たって喚いてんだよ」
「ハァッ⁉ 忍者⁉ に、忍者って、あの忍者?」
「そ。その忍者」
「…………」
「…………」
ハァ~~ッ、ヤレヤレ……。何を言い出すかと思えば……。この令和の時代によりにもよって忍者かよ? 勉強のし過ぎでついにおかしくなっちまったか?
思わす苦笑する俺に、
「しかもクノイチだそうだぜ?」
「ハァッ? く、クノイチィッ⁉ クノイチって、あのクノイチ?」
「らしいぜ。それも、更に付け加えるならうちの学校の制服を着てたんだってよ」
オイオイ、いよいよもって話しが可笑しくなってきたぜ。
「んで、そのクノイチ様は一体どちらに現れたんで?」
「え~~~っと、確か、三丁目の方だって言ってたような……」
ふ~~~ん、三丁目、ねぇ……。三丁目……――えっ⁉ さ、三丁目? 三丁目、だとぉ……⁉ 三丁目っていえば、さっきまで俺が逃げ回っていた辺りじゃねーか?
忍者、クノイチ、三丁目……。
ソレらのワードが俺の頭の中で幾度となく交差した結果、一人の人物の姿が浮かび上がった……。
――……ま、間違いねえ、こ、琴姉だ……。そのクノイチの正体は琴姉だよっ‼
な、なるほどね、そうやって先回りしたわけか……。
にしても、屋根伝いを移動して回ってたなんて……。らんまでもあるまいし、パルクールでもやってんのか、あの姉は⁉ ったく、無茶しやがって……落っこちて怪我でもしたらどうするつもりなんだよっ‼
し、しかし、そうなると、あの状況も琴姉が意図的に作り出したってこともあり得るんじゃ……?
普通ならあり得ねーが、琴姉ならば屋根伝いに人の流れを把握した上で、連中があそこに来るまでの時間を計算するくらい十分可能な気がするっ‼
とまぁ、改めて琴姉の恐ろしさを実感していたところへ、
「……た。――オイ、陽太ってば‼」
「うぇっ⁉ ――あ、わ、わりぃ、ち、ちょっと、考え事してて……。は、ハハハ……」
「ふ~~~~ん、あ、そう……。考え事、ねぇ~……」
「? な、何だよ? 何だってんだよ? やけに引っ掛かる言い方しやがって……。言いたいことがあるならハッキリいったらどうだよ?」
普段の単純バ……失敬、竹を割ったような性格とは打って変わって、腹に一物を抱えたような言い回しに少しカチンとくるものがあったが、ソコは冷静に対話を続けていく。
「いやなぁ、言いたいことっていう程のことでもないんだけどよぉ~、ついさっき妙な噂を耳にしたもんでさぁ~」
「噂ァ? どんな噂だってんだよ?」
「いやぁ~~~、勿論、俺は全然信じてなんかいないんだぜ? あくまでも周りが騒いでるだけのことであって~……」
「だ~か~ら~! どんな噂なのか勿体ぶらずにとっとと言えっつーの!」
閑話休題、落ち着きを取り戻すべく、パック豆乳を勢いよく啜っていたところ、
「分かったわかった。そう怒んなって……。いやぁ~、それがよぉ~、あくまでも噂話なんだがよぉ~、そのぉ~、お前と琴葉先輩が天下の往来で、その、
「ぶぅうううううううううううううううっ⁉」
ゲホゲホゲホッ……――く、苦しい……。
「お、おいおい、大丈夫かよ? き、きったねぇなぁ~、今どき毒霧なんてプロレスでも滅多にお目にかかれねーぞ?」
「ゲホゲホっ――……じ、冗談言ってる場合じゃねーよ、うぅ、し、死ぬかと、おもった……ハァ、ハァ……。て、てか、す、済まん、も、もう一回、いいか?」
「だ・か・ら、お前と琴葉先輩が
ち、ちょっと待てぇええええいっ! ふ、増えてる、増えてるよ、さっきより二個も増えてるじゃねーか、オイッ!
てか、何だってそんな話になってる訳? 実際は、
くっ、そりゃあ、昔から噂話には尾ひれがつきものとはいうが、コレは、尾ひれどころか背びれ、胸びれまでついて、挙句の果てには、魚人族にまでなってそのまま一気に海賊団でも立ち上げそうな勢いじゃねーか?
あ、葵先輩ぃいいいっ、全然情報統制されてなんかいませんよぉおおおおっ⁉ そ、それどころか、こ、コレは、悪化の一途をたどってますよぉおおおおおおおおおおっ‼
「……っ、で、その、な、何だ……。お、お前も、その噂を真に受けてる口か?」
それこそ恐る恐るといった感じで、あくまでも
「あん? 俺が? バッカ♪ いやいや、信じてる訳ね―じゃん、そんなデマァ♪ 普段、あれだけ琴葉先輩に対してぶー垂れてるお前が、まさかそんな近親そ……」
「ダァアアアアアッ、み、皆までいうんじゃねーーっ‼」
「あ、わりぃわりぃ。でもさ、俺は、噂話なんかにはこれっぱかしも踊らされたりなんかしねーぜ。俺はどんなことがあろうとお前のことを信じてるぜ♪」
そう言って俺の肩を数回、ポンポンと叩いてくる。
そんな他愛もないやり取りですら、今の俺には胸にくるものがあって。
うぅ、と、
ぐすん、や、やっぱ持つべきものは長年にわたって苦楽を共にしてきた親友、否、戦友だよなぁ……。
普段は喧嘩ばっかりしてても、いざ、友の危機には駆けつけてくれるなんて……。
これこそ正に最高のダチ、
うんうんと、しみじみ友の有難味ってヤツを実感しつつ、この素晴らしき友人の顔を心に刻み込むべく涙で潤んだ瞳を指先で拭い、再度まじろぐことなく見つめようとしたところ、
――うっ⁉
「………………(じぃいいいいいいいいいいいいっ……)」
こ、こいつ、言葉とは裏腹に、め、目が全くもって笑ってねぇ……。
こ、このヤロ~ッ、口では調子のいいこと言っておいて、その実、
「「「「(じぃいいいいいいいいいいいいっ……)」」」」
――ハッ⁉
ふと見渡せば
――……そして、それは授業中においても何ら変わることはなく……。
しかも、これ見よがしにあえて聞こえるように囁かれる俺への誹謗中傷の声……。
『結城君、サイテー……』
『ガルルルルッ、ひ、陽太、殺す……‼ お、俺の琴葉先輩にぃいいいっ……‼』
『きっと弟の立場を利用して、琴葉先輩を脅したのよっ! それでもって、琴葉先輩にあんなことやこんなことを……。キィイイイイイイイイイイッ‼』
ヒ、ヒィイイイイッ⁉ な、何だよ、お、弟の立場って? ぎ、逆に向こうこそ姉の立場を利用して纏わりついてきてるつーの‼
とはいえ、今の俺に出来ることなど限られてるし……。
「……………………」
……ま、いっか。何だかんだいっても、所詮は噂話じゃねーか。
それに、よく言うだろ? 人の噂も七十五日って♪ そうさ、七十五日も経てばすっかり忘れられてるに決まってる。
うん、そうだな、きっとそうだよな? なら、気楽に待てばいいんじゃね? フンフフ~~~ン♪ …………………………――って、アホかぁあああああああああああああああっ‼ な、七十五日も放置してたらそれこそ終わるつーーーのっ‼ い、色んな意味でっ‼
そんな焦燥感だけを残しつつ、その後も、授業中は勿論、授業の合間の休み時間さえも今の俺には針の
結局、昼休みになるまで俺の心が安らぐことはなかったとさ。
めでたし、めでたし……じゃねーよっ‼
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