DV夫と残酷な天使の鉄槌

kirillovlov

第1話 妻を殴る夫

「あの・・・朝、家を出る時に、ゴミをついでに捨てていただけないですか」


信博は、出勤前に家事を押し付けられたことにカッとなり、美沙子の顔を平手で殴った。


「ふざけんな!!」


毎日の仕事に忙殺され、その日も朝から客先へのプレゼンを控えていた信博にとって、玄関先での妻の一言が、出鼻をくじくようで無性に腹がたったからだ。


頬を抑えて驚愕する美沙子。


「・・・!わたしはただ、少し手伝ってもらえたらって!」


美沙子は涙をこらえて震える声で弁明してきたが、それが言い訳がましく信博には聞こえた。


「何様のつもりだ、オマエ!働きもしねぇ女が!!」


気づくと信博は、美沙子の顔を拳で殴りつけていた。


床に倒れ、何が起きたのか信じられない顔で見上げる美沙子に更に苛立ち、信博に渡すつもりでまとめてあったゴミ袋を両手で高く掲げあげ、美沙子に投げつけ、ゴミ袋の上から何度も踏みつけた。


ゴミ袋は破れ、生ゴミや紙くずが漏れ出し美沙子の服を汚した。顔面蒼白になって怯える美沙子は、放心したように目がうつろになった。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


念仏のように何度も謝る美沙子。


「ノロノロしやがって!イライラするんだよ!!」


ドアを閉める時、吐き捨てるように玄関の中の家庭に罵声を浴びせた。



結婚してちょうど1年が経過していた。美沙子の容姿にひかれ交際をしたのだが、実際に妻として迎えてみると、家庭における美沙子の要領の悪さ、家事の鈍感さ、不器用さが、いちいち信博を苛立たせた。付き合っている時は、自分を子犬のように慕ってくる美沙子に心地よくなり、ついつい良い気分になったものだが、一緒に暮らすには美沙子はあまりにも不器用だった。


信博は厳格な家庭で育ったこともあり、何事においても完璧を求め、かつ世間体を必要以上に気にする男だった。だからこそ、美沙子の愚鈍ともいえる不器用さに苛立ちを抱えていた。それが、1年経って抑えられないほどに暴発した。


数ヶ月前、ちょっとした夫婦喧嘩の時にカッとなって殴ったのがきっかけ。それから少しづつ暴力が常態化していった。信博にとっては、薄ノロい妻を躾けるくらいだと考えていたが、妻は泣いて謝るばかり。それが今回のように信博を更に苛立たせた。


「これからL社のクソ販売部長の前でプレゼンだって言うのに。クソ!イライラする!」


通勤途中の満員電車の中で、詰め込まれている人間たちを潰し殺す妄想をして時間を過ごしていた信博だが、妻を殴った拳の感触と、ゴミにまみれて怯えきった妻の表情を思い出し、満員電車に揺らながらそこに愉悦を見出していた。


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