第88話 蒼穹の落下物



 階段を昇り終えた先に広がるのは蒼穹の空だった。

 そういうのに特別な興味を抱いているわけではないし、あんまり感動しない口であった僕でも、思わず見入ってしまったくらいだ。


「へぇ……」


 あんまり期待してなかったけど、このスポットってけっこう掘り出し物だったかも。


 果てのない空は青々としていて、地上にいたときよりもぐっと身近に感じられる。


 ぷかぷか浮かんでる白い雲が、良いコントラストになってて、ありふれた景色に華をそえているようだ。


「素敵ですね」

「それなりにね」


 空を見つめて、吐息をこぼすシロナの傍に立ちながら上空を振り仰ぐ。


 開発スタッフの情熱が無駄に注ぎ込まれたらしいこの世界の空は、現実の物と比べて遜色ないように見えた。


 そこにシロナの不思議そうな声。


「あれ?」


 そんな空に、ぽっかりと黒い穴が出現した。

 小さかったそれは徐々に大きくなる。


「何でしょう?」


 グラフィックのバグか何か?

 それとも何かのイベント?


 思考が推測上の答えをはじき出すまえに、次の変化が生じた。


 直径十メートルくらいはありそうなその穴から、プレイヤーがこぼれ落ちたのだ。


 年は僕達とそう変わらないように見える。

 性別は女性。

 装備は、初心者のような軽装だった


 何であんな所からプレイヤーが?


 転移台を使わない転移方法もあるにはあるけれど、あんな高所に転移したプレイヤー何て未だかつていないはずだ。


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