第56話 シロナ蔓延



 とりあえずアリッサ一人をどうにかすればよいわけじゃない、みたいな状況が頭の中で重い。

 やだなぁ、こんなにたくさん人がいるよ。関わりたくないなぁ。


 そんな僕の変化を見て取ったアリッサが言わなくても良い事を。


「うわー、ニルバっち引きこもりの顔してる。女の子にモテないよー」


 どういう顔だよ。

 引きこもりが女の子にモテないって差別だろ。


 まあ、出会いの機会自体が少ないんだから、ある意味真実ではあるのかもしれないけど……。


 緊張感の全く感じられない彼女と一言、二言やり取りしている間でも、シロナは真面目だった。

 他の人達に話しかけに行っている。


「皆さん、非戦闘員の方達みたいですね。大丈夫ですか?」


 で、片っ端からさっそく回復魔法とかかけていってるみたいだ。


 とりあえず、そんな彼女を視線だけで追いながら、アリッサに事情を尋ねる。


「何でこんな大勢いんの?」 


 目の前にいる人達は、装備品を見るにどう考えても、戦闘向きのプレイヤーには見えない。

 それに、一般レベルから、一つ二つ質が落ちたそれらを着こむ彼らからは、フィールドにでて日々命のやりとりをしている一般プレイヤーのような気迫や覚悟が感じられなかった。


 間違っても、こんなモンスターが闊歩するようなイベントの日に出てくるような人数じゃない。

 疑問をぶつけられたアリッサは頬を掻きながら説明。


「えっと、実はこの人達ってアイテム調合のスキルをとってる人達なんだよね。で、今のこの町って石化の状態異常かかっている人達がたくさんいるでしょ? あたし達みたいな情報通なら対処の仕方知ってるけど、初心者だと知らない人もいるからさ」


 つまり、お人よしどもが外に出て、プレイヤーたちに警告して回ってたって?

 そういう事?


 シロナのお人好しって、空気感染でもしてんの?


「じゃあ、アリッサさんはその人達を助けたんですね」

「まあねー。他人事だとは思わなかったし」


 そりゃ、君も石化予定だし。



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