第44話 天邪鬼な優しさ



 僕が言い終わるまで静かに聞いていたシロナが口を開く。


「ニルバさんは、優しいんですね」


 はぁ、今そんな話してた?


「だって、アリッサさんの為に水晶草を探してくださったんでしょう?」


 違うって言おうとしても、言葉は出なかった。

 だってシロナが、こっちに近づいて来て……。


「うぇ?」


 僕に抱き着いてきたんだから。

 え? え? え?


 何やってんの?

 いや、ほんと何やってるっっ???


「私の友達のために、危険なダンジョンの中を進んでくれてありがとうございます」

「ち、違う……」

「違わなく何かないですよ。私にはニルバさんの気持ち、分かりますから」

「何それ、意味分かんないんだけど」

「アリッサさんの事で、私の事で怒ってくれて、心配してくれてありがとうございます」

「だ、だから、それは……」


 僕が気にくわなかったからだし。

 むかついただけで、アリッサの無謀さとか、おばさんの馬鹿さ加減に苛ついただけ。

 それ以外に理由があるわけがない。


「あの日、私を泊めてくれてありがとう。いくら回復魔法の使い手で、戦闘力が低かったと言っても、普通は素性も分からない人を家の中に入れてくれたりはしませんよ。きっと」


 シロナの頭の中には紛れもなくお花畑になってるんだろうけど、常識はちゃんとあったみたいだ。


「……」


 でも、別に……、あの時の事なんてそんなに大した事をやったとは思ってない。

 だって、僕は。


 死んだら何となく気持ち悪いと思った。

 ただ、自分が手を差し伸べなかったせいで、死なれたら寝覚めが悪いってその程度の事で家の中に入れただけでさ。


 言い訳しようとした口を、指でかるく抑え込まれる。


「最初から、私はニルバさんが優しい人だって分かってたんですからね」

 

 なんか生意気だ。

 こんな時に余裕の顔をするシロナなんて面白くない。


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