第39話 柄じゃない



 口を開けた間抜け面になっていたおばさん達だが、復帰は早かったようだ。


「はっ、何言ってんの? 仲間でもないアンタに指図されるいわれはないね」

「指図だなんて、そんな……」

「おおかた、水晶草が欲しくて後をつけてきたんでしょ? あーやだやだ、仲間外れにされたからって、横からかすめ取ろうだなんて」

「そんな事っ、思ってません!」

「口では何とでも言える」


 シロナがあいつらをつけてきていない事は、他ならぬ僕が知っていることだ。

 シロナはただ、心配でこいつらに声をかけただけなんだ。


 水晶草がほしくて馬鹿な彼女が一人でココ谷をうろついていた可能性は否定できないけど、ここを見つけたのはただの偶然だ。


 それを何も知らないあいつ等に言われるのは、何かムカついた。


 だから、僕は盛大なため息をついた。


「はぁーっ」


 やだやだってのはこっちのセリフだ。

 ここんとこらしくない事ばっかりしてるよ。


 でも、何でだか後悔はそんなにないかな。


 隠蔽効果が切れて、シロナもおばさん達もこちらに気づいたようだ。


「そんなお馬鹿さんと僕を一緒にしないでくれる? シロナはたった今ここに来たとこだよ。ずっと慎重にあんた達をつけてた僕が見てるしね」

「なっ、あんた……この前のっ。まさかシロナと……」

「グルだって言いたいの? 残念、外れだよおばさん。一緒だったら、こんな無意味なタイミングで声かけないし。アンタ等が扉の奥に消えてから出られないように、出口閉めてるって」

「なっ、なっ……」


 もちろん冗談だけど、結構効いたようだ。

 こういうのはなめられないのが肝心だし、言い過ぎなくらいがちょうどいい。


 口をパクパクさせているおばさんは、きっと睨みつけて来た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る