第16話 餞別の守り石



 まぁ、シロナの天然さ加減とか真面目さ加減が頭から抜けていたのも、僕の落ち度みたいなもんだし。


 こんな状況になってしまったのは不本意だけど、別にどっちが悪いかって話じゃないと思う。

 さっきの持論だって、僕が勝手に言って雰囲気を悪くしただけなんだし。


 これぐらいは責任取るよ。

 男だしさ。

 なんかこの空気引きずって別れるっていうのもアレだし。


「仕方ないなぁ」


 僕は適当にそこら辺の露店のおっちゃんに声をかけて、初心者用のアイテムを一つ購入してシロナに手渡した。


 あ、こいつの手、初めて触った。


 ちょっとだったけど、あったかくてやわらかった。

 たかがゲームなのに、そういうとこしっかり再現すんなよって思わず思った。何とも無駄なとこに。


 人の手の違いが分かるほど、同じ事してきたわけじゃないし、ましてや女の子のそれなんて語る程握ったことないけど。


 シロナらしい手だった。

 優しい女の子って簡易の、細くて華奢な。


 今更だけど、なんてこんなゲームやってたんだろうな。

 オンラインゲームにどっぷりはまってるって感じにも見えないし。


「あの、ニルバさん。これは?」

「餞別代わり。ほらそっちあんまりレベル高くないし、シロナは回復要員だろ? 適当に野に放ってすぐに死なれても寝覚めが悪いし、悪くない朝食のお礼もかねて」

「こんなもの、受け取れません」

「あっそ、なら渡さないけど」

「ええっ?」

「なんて、冗談だよばーか」


 押し付けるように買った守り石を渡しておく。

 致命傷を一撃だけ無効にしてくれる石は、それほど高くなくてマイナーなものだけど、今の僕達の関係でいえばそんな適当なものを贈るので十分だ。


「じゃあね」

「あ、はいニルバさんこそ。お元気で」


 手を振って、背中を向けて歩き出す。

 変わった出会いだったし、変わった人間だった。


 そう簡単には忘れなさそうだけど、向こうの方はさっさと忘れてしまうだろう。

 何か事情があって一人でいるようだったけれど、それでもあの性格なら周りが放っておかないだろうし。

 騙されて利用されるにしろ、普通に仲間として迎えるにしろ何にしろ。


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