依頼人

 時間も時間ということで、私達は依頼人と共に学校を後にし、女子会をしたファミレスへと移動していた。


「とりあえず、改めて自己紹介してもらえるかな」


 年長者である伊賀先輩の進行で詳しく話を聞くことになり、依頼人である女子生徒は頷くと口を開いた。


「一年二組の七瀬瑞希です」


 ショートボブの少し茶色がかった髪で身長は私ぐらい。左頬にはチャーミングポイントというように可愛らしい黒子がある。


「七瀬さんね。私は伊賀静。唯一の二年生ということで一応部長をやらせてもらってるわ。よろしく」

「よろしくお願いします」

「そんで順番に紹介すると、一年の針宮理恵ちゃん、峰岸明里ちゃん、堀田由衣ちゃん、最後に蜷川祐一よ」


 私達もよろしくと面と向かって自己紹介するが、蜷川だけは一瞥もくれずスマホをいじっていた。


「それで、さっき明里ちゃんが言ってたけど、私達セイタン部に依頼をしたいんだって?」

「はい。最初私が峰岸さんに相談したんですが、それを聞いた峰岸さんがセイタン部を薦められて」

「悩む生徒の登場。これはセイタン部の出番と思い立った次第です!」


 えへん、と胸を張って言い放つ明里。


 ほほう。明里のやつ、私達の知らない所で部員らしく広報活動をしていたのか。やるじゃない。


「七瀬さんと明里ちゃんはどういう関係?」

「友達です!」

「なるほど」

「いえ、さっき知り合ったばっかです」


 平然と、そしてあっさり否定する七瀬さんに私は肩をガクッ、と落とす。それを聞いた明里は心外なように驚きの声をあげた。


「そんな! 私達もう友達でしょ!?」

「いやいや、いくら同学年とはいえたまたま会った人とすぐには友達にはなれないから」

「一緒にコロッケ食べた仲じゃない!」

「それも偶然でしょ。別に一緒に買いに行ったわけじゃないんだから」

「ショック!」


 落ち込む明里だが、今の話でだいたいの流れは理解した。


「つまり、明里の行きつけの揚げ物屋で二人は知り合ったんだ」

「うん。私も友達と部活帰りによくその揚げ物屋に行くんだけど、ちょうどそこで私達の会話を聞いた峰岸さんが割って入ってきたの」


 割って入ってきたのか……。明里はそういう所あるのよね~。


 物怖じしないというか前向きな性格だからか、明里は初対面の相手でも妙に親しげに接していく。人によっては煩わしく感じるかもしれないが、それが明里の良い所でもあった。誰とでも分け隔てなく話し掛けるので、実は学園内で友人が多い。


「部活の帰り、って言ったけど、何部?」

「テニス部です」

「嘘? 私も中学はテニス部だった」


 元テニス経験者として私は反応した。


「そうなの? でも、今はテニス部にいないよね。何で?」

「いや~、高校になるとレベル上がるし、中学の頃もなんかしっくりこなくて」

「ウチのテニス部もそんなにレベル高くないよ。大会もそこまで勝ち上がれるわけじゃないし」

「でも、やるからにはやっぱ勝ちを目指したいじゃん? 練習して強くなっていかなきゃならないけど、私バックがどうしても苦手でさ。なんか強くなれるイメージが沸かなくて」

「あ~、バックが苦手な子は多いね。ウチの部にもそういう子少なくないよ」

「やっぱ腕の使い方?」

「どうだろ。ラケットの握りの場合もあるし」

「お二人さん、本題を忘れてない? テニス談義はまた今度にしようよ」


 伊賀先輩の注意で私と七瀬さんはハッ、とすると、謝って頭を下げた。


「堀田さんとは話が合うな~。仲良くなれそう」

「私も。よかったらこれからよろしく」

「こちらこそ」

「私は!? 私は!?」


 除け者にされた明里が焦って体をテーブルに乗り上げながら自分を指を差す。


「じゃあ、ついでに」

「イエス! 友達、獲ったどー!」


 いや明里、おまけみたいな流れになってるのに何でそんな……というか声でかい。周りに迷惑だから。


「それじゃあ、依頼内容を聞かせてもらえるかな?」


 伊賀先輩の促しに、七瀬さんが居住いを正して本題に入った。


「実は、ウチの部で少し困った事が続いているんです」

「困った事?」

「はい。その、先輩達や友達が相次いでケガや体調不良を訴えているんです」

「うんうん」

「それで、セイタン部の皆さんになんとかしてもらいたくて」

「……え~と、マネージャーをやれとか、そんな感じ?」


 困惑する伊賀先輩だが、言いたいことは分かる。


 たしかに、今の内容では部員達の不注意で終わってしまう。スポーツをしているのであればケガなんか日常茶飯事だし、体調不良も起きないわけではない。マネージャーがいればその予防やケアもサポート出来るだろう。


「あっ、ごめんなさい。言葉足らずでしたね。別に部の健康管理をしてくれとか、そういう話じゃないんです」

「あ~、ビックリした。もしマネージャーやるんだったら新しいジャージ買わなきゃならなかったよ」


 明里、心配するのそこじゃない。テーピングとか、補佐の知識の勉強だから。ジャージなんかどうでもいい。


「その……自分でも突飛な事だとは思うし、言っても信じてもらえるか自信ないんですが」

「なんかあまりハッキリしないね。とりあえず言ってくれなきゃ始まらないと思うよ」

「そう、ですね……。あの、笑わないでくださいよ?」

「笑うような内容なの?」

「いえ、どちらかといえば怖い部類に入るかと」


 言い難い内容なのだろか。七瀬さんはいまいち要領を得ないことばかりを口にし、中身が見えてこない。しばらく考え込んでいたが、ようやく話してくれた。


「皆さん……呪い、って信じますか?」


 私達は一斉に固まった。まるで時が止まったかのように。


「ああ~、やっぱそうなりますよね」

「あ、いや、ごめん。予想を越えた言葉が出てきたから」


 私は慌てて七瀬さんに返す。


「確認なんだけど……呪い、って言ったよね?」

「うん、言った」

「呪い、って『末代まで祟ってやるー!』という、あの呪い?」

「うん」


 真剣な表情の七瀬さん。どうやら冗談の類いではなさそうだ。


「う~ん。呪いとなると、私達よりも祈祷師とかにお願いした方がいいような気がするんだけど」

「ダメよ。それじゃ何の解決にもならないんだから」

「いやだって、呪いよ? 学生の私達じゃどうにもできないよ」

「何言ってるの。白峰学園の生徒じゃなきゃ意味ないんだよ」

「それどういう意味?」

「もしかして堀田さん、ウチの学園の呪い話知らないの?」


 学園の呪い話? 


「あ~、そんな噂聞いたことある」

「わ、私達の学園じゃ有名ですよね」

「眉唾もんだと思ってたけど、本当だったんだ」


 えっ、えっ? 何、皆知ってるような口振り。私、知らないんだけど?


 明里達は合点がいくようで、私は忙しなく頭を振ってしまう。


「その反応だと本当に知らないみたいね」

「何? ウチの学園、何かあるの?」

「堀田さん。学園七不思議、って言葉聞いたことない?」

「学園七不思議? あれだよね。音楽室で勝手にピアノの演奏が始まる、とか」

「そう、それ。学校に伝わる七つの不思議」

「たしか、六つまでは皆知ってるけど七つ目は誰も知らなくて、それを知った者は死んじゃうんだよね」


 よく漫画の舞台や設定で使われるホラー要素を備えた学園七不思議。ホラーだけあって恐怖を覚えるので、私はあまり好きではない。


「そう。そして、ウチの学園にも似た不思議があるの」

「えっ……」


 私はドキッ、と心臓が跳ね上がるのを感じた。


「その名も『白峰学園七不思議の怪異』」

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