第47話 心当たり
暗くなった山道を、スマホのライトで照らしながら歩いている。朝霧君と一緒に歩いた肝試しの夜を思い出すけど、今私の隣にいるのは、そのお母さんだ。
「病院抜け出してきて、本当に大丈夫だったんですか?」
朝霧君の行き先を聞いた私に、朝霧君のお母さんは自分も行くと言い出し、二人してここまでやって来た。もちろん、入院中で外出禁止という事もあって私は止めたのだけど、彼女は頑として譲らなかった。
「平気よ。後で怒られればいいだけだもの」
それは大丈夫じゃない気がするし、体の事も気になる。だけど自分の子がいなくなったのだから、その心配は私よりもずっと大きいのだろう。今さら帰ってもらうなんてできそうにない。
「この先なんですよね」
この道がどこへ通じているのか、詳しい事はまだ聞いていなかった。病院を出てすぐにタクシーを使ってこの山道の近くまで来たのだけれど、車内では話しにくい言葉も出てきそうだったので、今まで質問はできずにいた。
「この先に社があるの。そしてそのさらに奥の森は、たくさんの妖怪の住処になっているわ。晴の父親は、その社に祀られていた神格の妖怪に使えていた。だからもし晴がいるとしたら、そこじゃないかと思うの」
妖怪の住処。その一言に思わず体が強張る。
「五木さん。さっきも言ったけど、あなたが無理して行くことはないのよ。もしかしたら危ない目に遭うかもしれないし、怖いならすぐに戻った方がいいわ」
これから行く場所には妖怪がいるかもしれない。それだけは事前に伝えられていて、怖いなら残った方がいいとも言われた。
実際、そんな所に行く事への不安はある。けれど、朝霧君を見つけたいという一心で、そんな思いを振り切った。
「平気です。私も、朝霧君の事が心配だから」
朝霧君が去って行った時の事を思い出す。あの時私は朝霧君に何もしてやることができずに、その後悔は今も心の中に渦巻いている。だからこそ、今度こそ自分ができることなら何だってしておきたかった。
「そう。でも、危ないと思ったらあなたはすぐに引き返して。家族の方もきっと心配するわ」
お婆ちゃんの顔が頭をよぎる。お婆ちゃんはもちろん妖怪の事なんて知らないし、私がそんなものを見えるなんて夢にも思っていないだろう。だけど朝霧君のお母さんの言うとおり、私に何かあったらとても心配するというのはよく分かった。
「……はい」
だからそう答えたけど、もし実際に危険な目にあったらどうするだろう。その答えは私自身にも分からなかった。
「晴は、自分が人ではないことに苦しんでいて、どこかで妖の世界に行くことを望んでいたようにも思うの。もしそうなら、行き先はきっとこの先の森だと思う」
朝霧君のお母さんが、歩きながらそんなことを言う。朝霧君のお父さん。妖怪であるその人と、ここにいる人間のお母さんとの間に、朝霧君は生まれた。けれど今まで妖怪に対して恐怖しかなかった私からすると、それはまるで、おとぎ話の出来事のようにも思えた。
「あの、聞いても良いですか?あなたはどうして……その……」
二人の間に何があったのか聞こうとして、だけど言葉に詰まる。一つ言葉を間違えれば、とても失礼な発言になりかねない。
「いいのよ。妖怪との間に子どもを作るだなんて、おかしいと思って当然だからね」
けれど朝霧君のお母さんは、それを気にする様子もなく答えた。
そして、ゆっくりと語り出す。
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