1.6 僕らの計画

「そういえば、滝藤さんの自己紹介をしたままで、僕らの自己紹介してなかったね。首藤すどう しゅうです。」

北上きたかみ たかしです。」

吉岡よしおか しんや。」

桐谷きりたに 海二かいじっす。」

喜連川きれかわ 誠司せいじといいます。」

滝藤は全員の名前をようやく知ることができた。彼らの特技はおいおい聞けるに違いない。


「あ、そや、ちなみに、うちらの仲間はこんだけちゃうから。また、それは別途紹介したるから。」

「変わった人もいるけど、まあ、大丈夫だから。こんな人もいますし。」

とそういって、桐谷は吉岡を親指で指した。滝藤は素直にうなずいた。吉岡が桐谷を睨む。


「仲間は多くいたほうが嬉しいが、この二人はエンジニアだから、先にこの二人の件を片付けてしまったほうがいいな。その後もともに活動できるだろうし。」

「ほな、他に来ている依頼はひとまずは後回しやな。」

 吉岡は指折り数えたフリをする。


「活動拠点はどうする?」

「サイバー空間上はもちろんだけど、リアルについてはいい案があってな。」

「ほう?」

「信頼できる筋から、湾岸にあるマンションを利用していいと言われているんや。そこをうちらの根城にする。この方は近々紹介できるから待っとって。」

吉岡は自信満々にそう答える。首藤も首を縦に振る。


「そんな都合のいい場所を簡単に提供してくれるって、その人何者です?」

大塚は桐谷と目をあわせて、首をかしげた。

「まあ、そのうち会えるから。もとはそのマンションも有名二世芸能人がもってたマンションなんやけど。そいつ薬物が原因でしょっぴかれてさ。地下でバーも経営してたんやけど、どうも麻薬売買をその店を経由して行われていたんだと。」

ニヤニヤしながら吉岡は説明する。


「あの地域でマンションを買うか検討してたことがあったけど、あそこのマンションでそんなことが起きたもんだから価値も下落して、誰も済まないゴーストタワーと化してるんだよね。外壁もぼろぼろだし、スプレー缶吹付けられてペイントまみれ。」

「そうなのか。」

首藤には家族もいる。湾岸のマンションを買おうとしていたことは他のメンバーは知らなかったようだ。


「有名な散歩コース沿いにあるけど、あの場所だけは異質で今は誰も近寄らない。」

「誰も近寄らないからこそ与えてくれる場所なのかも。ならば、都合がいい。」

喜連川は鼻から深い溜息をした。やる気に満ちているようだ。


「インフラはどうする?水や電気、あとネット回線も。」

「そいつが逮捕されたときの契約がそのままなんだって。いまでも滞りなく支払いもできているらしい。逮捕された芸能人の口座からそのまま引き落とされているのか、それとも?」

吉岡は顎に手を当てながら説明する。


「まあ、使えるなら利用させてもらおう。中古で購入するワイヤレスファイアウォールとスイッチでコンパクトなものでいいから持っていこう。万が一のときは、一撃でコンフィグをクリアすればいい。そのまま捨てていける。」

桐谷は普段、自宅にラックを保有しており、オンプレミスでネットワーク機器やサーバを組み上げ、自分の要塞を作り上げている。


「アクセス元はばれないよう匿名プロキシを噛まして接続すればいい。」

喜連川の発言には他のメンバーも頷く。


「せやな。その他工具やケーブル類は各自ジャンプバッグに詰めてもってくるようにすればええやろ。」

 ジャンプバッグとは、通常はインシデント対応用に用いるバッグで、フォレンジックに必要となる外付けHDDやドライバー類、ケーブル、PCを含んだ器材が多く含まれる。


「予定どおり盆休み前に決行か?」

首藤は吉岡に尋ねる。


「せや、あと一週間ちょっとや。一週間の夏休みの中で、ハッカー達による解放区を作んねん。Anonymousアノニマスともちゃう。僕らの正義を貫ける解放区を。」


「Webサイトの構築は順調?」

首藤は喜連川に尋ねる。

「順調です。僕らがオフラインで初めて出会ったこの店の名前がC2なので、C3と呼ぶことにしてます。Cyber Consentration Camp。略してC3です。その意味は・・・」

「サイバー強制収容所、いいねぇ。」

吉岡は満足そうな笑みを浮かべる。


「ですです。毎日ここに抹殺者の情報が載ってきます。画像とともに名前、会社名、抹殺する理由とかですね。」

「まあ、せやかて、これから載せていくだけではアクセス数もそんなにないから、ヴァーチャルキャストで面白くライブ配信していこうと思う。あとは他のSNSで拡散や。しかもサイトにも面白い仕掛けをしていてな、これはそのうち明かすわ。」

「え、誰がそんなこと出来るんですか?」

喜連川は吉岡の顔をみた。

Unityユニティに詳しくて、面白そうだからうちらと活動してみたいっていうのがいてな。カメラも得意で、一部のIoT機器の扱いにも長けてたりしてな。おもろいやつおんのや。」

「面白くなってきましたね。」

 北上もニヤニヤしてきたのがわかる。滝藤は友達に感謝した、今日一緒に飲まなくてよかったかも、と。


「あとはいつものチャンネルで。他のメンバーにもそこで伝達しよう。」

首藤が意見をまとめたところで、北上が、何かを思いついた。

「滝藤さん、いまはPCもってますか?」

「はい、持っています。」

「ならば、簡単にIRCの接続についてレクチャーします。」

そういって、北上は滝藤に自分のPCをつかって説明し始めた。


「俺、首藤、桐谷、喜連川、ここにはいないけど安田、加川は夏休み前の仕事が終わり次第、夜からマンションに向かう。簡単なインフラは俺と桐谷で構築をするけど、あと必要なものはクラウド上でさくさく作っていこう。C3もそこにある。」

吉岡はみんなに説明し、首藤が続いて説明した。

「中馬、村下は翌日からくるはず。北上も翌日からだよな?」

「そうですね。その日は深夜にペンテントのオンサイト作業があるんで、終わったら向かいますよ。」

北上は拳を握ってガッツポーズする。


「オッケー。大塚さんと滝藤さんはどうします?大塚さんは夏休み合わせてくれたっていってたけど。」

「私、予定どおり夏休みとるから!そして、夏休み以降きっとあのオヤジと合わなくてすむって思うと、ハッピーだわ!」

「そうですね、私の会社はいつとってもいいとは言われているので、そこに合わせてとります。その先輩はすでに休み取り終えてます。あの期間は幸せでした。」

 滝藤は少しばかり回想していた。


「夏休みが終わって先輩がいなくても大丈夫だよね?念の為の確認だけど。」

「はい、かまいません!」

「よし、じゃあたったの一週間だけど、ここから始まる。ミッション開始や。」

 ちょうど、"Hack into Japan"での最後の登壇者が発表を終えて聴講者が拍手を送っているところだった。全く話を聴けなかったけど、滝藤の顔は幾分スッキリとしている。そうして、各自、店を後にした。

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