第10話「拝啓、脳内会議」
「ささ、お腹空いているんだったら、お食べ。朝に食べたパンよ」
「……、そうじゃないんだけどな。けれど、いただきます」
僕はアミュのご厚意に感謝しながら、パンを一個ぺろりと食べた。本当に僕の言っていることはアミュさんには伝わっていないらしい。まるで人間と犬、猫って感じだな。
「いい子だ。それじゃ、お仕事(クエスト)に行ってくる」
リビングの棚に掛けてあった剣を背中に背負い、玄関の扉を開けた。
「ドラコ。私が帰ってくるまで、この家で待っていてね。夕方には戻るから、あ、そうそう、お昼のごはんはさっき置いたパンで我慢してね」
ドア越しに顔だけを僕に見せながら、玄関の扉を閉めた。
「……、もう一個食べちゃったよ。残り二個、昼まで足りるだろうか……」
別の問題が出てきてしまった。まさかのお昼の分も含まれていたなんて……。昼まで何時間ある?とりあえず、空腹をしのぐために水でも飲もう。
僕はキッチンに向かうと、使い終わった食器がシンクに置かれている真上に、コックと水が出そうな蛇口があった。
だけどさらなる問題が発生した。位置的に僕は届かない。無理に登ったら、お皿を割りそうだ。
「チクショウ。置いてある、食料と水で何とか今日を過ごさないといけないのかよ。っく、考えろよ、僕は元人間なんだぞ、なにかあるはずだ」
目を×(ばつてん)にしながら、頭を働かした。脳内会議だ。
食料は残りパン二個。水はお皿に入っているだけ。アミュさんが居る間に大量に飲んでおけば良かった。だけどどうする。脳内に居る僕Aに話しかけた。
「そうだな。とりあえずこの家から脱出して湖に向かうのはどうかな」
「却下だ。また生命の危機に出会うかもしれないぞ、僕A」
顎に手をあてながら深く考えていると、僕Bが話しかけてきた。
「それじゃ、アミュさんの言いつけ通り。この家で待機するのはどうかね。他者原因の生命の危機を感じることはないぞ」
「実際のところ、安パイだと思う。だけどさっき食べたのにも関わらず、もうすでにお腹は空いている。残りパン二個。夕方まで持つかどうか……」
ため息を吐きながら、我ながらお腹に猛獣を飼っていることに頭を抱えてしまう。すると、前世の僕、人間だった時の僕Cが話しかけてきた。
「それじゃ、今ある食料を全部食べて、水も全部飲んで、満足な状態、すなわちストレスフリーになったうえで、アミュさんを追うのはどうかな?」
「…………」
少しばかり、間をおいて。脳内の僕たちが一斉に口を開けた。
「「「そ……、それだ!」」」
同時に、歓声が僕の脳内に響き渡る。思い立ったら吉日。残りの食料をペロリと食べて、お皿に置いてあった水をゴクリと飲んだ。思いのほか一瞬だった。
「よし。行くか、まだ出てすぐのはずだ。すぐに会えるはずだ」
期待を胸にドアの前に立つ。夜と同じ感じで立ち、ジャンプする、ドアノブを掴むとドアが開いた。素早く外に出ると僕の頭でドアを閉める。
僕はアミュの家を見上げる。このまま火や電気などもついてなかったし、このまま開けても大丈夫だろう。
顔を手で軽く叩くと「よし」と口から言葉が漏れた。
「これからアミュさん捜索を開始する」
右手を頭近くにあげて、アミュの家に啓礼のポーズを取る。待っていてください。アミュさん、これから僕が向かいますから。僕の足が一歩一歩と歩き出す。
確かに、生命の危機はこの世界にはいっぱいある。だけどこの状況はアミュさんのところに居たほうがいいに決まってる。
「待ってってくださいね。あみゅぅぅぅさぁぁぁん」
手を天に上げながら、クンクンとアミュの匂いを察しながら、森に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます