魔女の森編

序章 What’s your name?

 草木が鬱葱と生い茂る森林地帯。遠くからは、野鳥のものらしき鳴き声が響いてくる。

 道なき道を走り抜ける度、足許から聞こえるのは、草を踏み付ける音。立ち止まる暇もなく走り続ける俺のすぐ横を、その時、一陣の風が通り過ぎた。

 ただの風じゃない。心地良い風でもない。

 突風と呼ぶべき鋭いその風は、自らの行く手を阻む木々を、次々に切断していく。

 これは自然現象として生まれた鎌鼬かまいたちじゃない。そこにあるのは、人を殺すための力、『魔術』だ。

 俺に向けられた殺意の一撃は、辺り一面の草や木を根こそぎ削り取っていく。

 隠れる事は、恐らく無意味だろう。なぜなら俺の髪は、炎のような紅い色をしている。普段でもかなり目立つこの髪は、周囲に緑が多い森の中では、余計に目立ってしまう。

 と、その景色の中に、俺は一人の少女の姿を見つけた。

 殺傷するための風を生み出し、敵愾心を向けてくるその少女の正体を、俺はよく知っている。

 彼女は俺と同じで、『魔術』を操る者。

 人は俺達のような存在を、総じてこう呼ぶ。

『魔術師』、と。

「お前、一体何者だ?」

 少女の正体を理解した上で、それでも俺は問い掛けた。俺が知りたいと思った部分はそこじゃない。

「あんたこそ、どこの誰よ?」

 少女は怪訝な顔付きで、静かに問い返してくる。

 俺達の出会いは、そんな会話から始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る