フレイム・ウォーカー

エスパー

テルノアリス編

序章 トラブルメーカー

「おい、クソガキ。てめぇ、よくこの状況で平然としてられんな?」

 頭の上から降ってきた喧嘩を売っているような台詞に、俺はゆっくりと顔を上げた。

 そこにいたのは、いかにもガラの悪そうな男。歳は俺より十歳は上に見える。俺の何が気に喰わないのか知らないが、酷くイラついたような顔をしている。

「……何の事だ?」

 俺は読んでいた本を仕舞いながら、とぼけたフリをした。が、今の状況ならよくわかっている。さっきから妙な連中が、列車の中を占拠しているんだ。

 要するにこいつらは、強盗かそれに類する輩だろう。腰にはナイフ、右手には黒光りする拳銃と、ご丁寧にわかりやすい格好で、俺に絡んできてやがる。

「頭悪ィのかてめぇ? この列車は、今現在俺らに占拠されてんだよ。なのに澄ました顔して、呑気に読書なんか続けやがって。人をバカにすんのも大概にしとけよ、クソガキ」

 こいつの言う通り、俺は絡まれる直前まで、車内の他の乗客が悲鳴を上げている間も、ずっと手に持った小説を読んでいた。内容は……、まぁそこそこ面白かったかな。

 なんて的外れな事を考えている間にも、強盗野郎はべらべらしゃべり続けている。

「大体てめぇ、その髪の色は何だぁ? ガキのくせに紅い色なんかに染めやがって。気取ってるようにしか見えねぇんだよ」

 別にお前に関係ねぇだろ。それにこれは地毛なんだよ。……なんて言うのが面倒臭くて黙っていると、俺は強盗に胸倉を掴まれて、無理矢理立たされた。

「聞いてんのかクソガキ! 何とか言ってみろ!」

 凄みのある言葉を浴びせているつもりらしいが、この程度で俺は萎縮したりしない。何か言ってほしいなら言ってやるよ。

「あんた、よっぽど暇なんだな」

「ああ!? 何だと!?」

「だってそうだろ? 列車中を占拠してるってことは、あんたは見張り役のはずだ。なのに自分の仕事サボってこんなガキに絡んでるなんて、他にやることがなくて、暇なだけなんじゃねぇのか? ……ああ、ってことはあれか。あんた超が付くくらいの下っ端な訳だ。ははっ、そりゃあ暇にもなるよなぁ」

「てっ、めぇ……っ!!」

 生意気な俺に対する怒りで、強盗の手がブルブルと震えている。よしよし、挑発は成功のようだ。

 だけど問題があった。ここで俺がこいつを倒したとしても、こいつにはまだ仲間がいるはずだ。

 この列車は、機関室を入れて七両編成。最後尾であるこの車両から、一車両に一人いると仮定すると、眼の前の男を除けば、仲間は最低でも六人以上いる事になる。

 しかも人質に成り得る乗客は、俺以外にもいる。ここで手を出せば、かなり厄介な事になるのは明らかだ。挑発しておいて言うのもなんだが、大人しくしていた方がいいかも知れない。

 だが、眼の前の強盗はもう止まりそうにない。男が拳銃を掴み、俺の眉間に突き付けてきた。

「頭吹っ飛ばしてやる! どうせてめぇみてぇなクソガキが死んだ所で、悲しむ親なんていやしねぇだろうしな!」

「……あ?」

 こいつ、今何て言いやがった?

 聞き取れていない訳じゃない。聞こえていたからこそ、もう一度確認しておきたい。

「……俺に親がいないって?」

「何だぁ、図星かクソガキ! こりゃいい! その様子じゃあ、どうせ親の顔も知らねぇんだろ? はははっ、いい気味だ! だがまぁ安心しな! てめぇの親はてめぇと同じで、碌でもねぇクソみたいな野郎に違いねぇんだからよ! ヒャハハハハ!」

「……黙れよ」

「あ? 何か言ったかクソ――」

 男が言い終わる前に、俺は思いっきり右手で男の顔を殴り付けた。そのたった一発で男は気を失い、列車の床に倒れ込む。

 気絶して倒れている男に向かって、俺は聞こえていないとわかった上で、それでも言った。

「俺の親をバカにする奴は、どこの誰だろうと許さねぇ!」

 俺を除いた他の乗客達は、皆少し口を開けて呆然としていた。

 前言撤回。大人しくなんてしてられるか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る