ハマダイ

エビノ①


 カーテンの隙間から太陽の光が差し込む前、人々の営みを始めるには早い時間

 目覚まし時計が後少し、後少しと自分の役目の一つである騒音を部屋中に鳴らしてやろうとカウントダウンをするかのごとく秒針を動かす。

 しかし、その役目を果たす前にエビノは目を覚まし時計のアラームを切った。


「帰ってこれた。」


 エビノは目覚まし時計のアラームを必要とせずとも自分の意思でこの時間に起きようと思えば起きれる人間である。


目覚まし時計のアラームをセットするのは一種のルーティーンである。

「この時間に起きる。」と目覚まし時計に向かって意思表明をしてアラームをセットすることでエビノは時間通りに目を覚ますことができるのである。


 時刻は午前3時。早起きの老人でも、もう少し遅く起きるであろうこの時間から、エビノは寝間着のジャージを着たまま走りやすい靴を履く。目覚まし時計を片手に、近くにある学校のグラウンドまで走りそのままグラウンドを走る。


二周目あたりを走るあたりで、半分寝かかっている頭が起きてる。すると、スーッといったオノマトペでしか表せない感覚に襲われる。


頭を起こす為に走っているエビノであるが、この感覚が好きという理由もありこの習慣を続けている。


 手に持った目覚ましが鳴り響く。

エビノは走るのをやめる。目覚ましがなければ、走り続けていたところだったとヒヤッとするも、いつものことかと割り切る。


 家に帰り、セットした目覚まし時計を脱衣所に置き、少し熱いくらいのシャワーを浴びる。エビノは全身くまなく綺麗に洗い終わると少しづつシャワーの温度を下げ、冷水シャワーを浴びて汗腺をキュッとしめる。


ここまでがエビノの目を覚ますための二度寝防止のための行為である。


 アラームが鳴り響く。

 時刻は4時近く、エビノはようやく早起きしてやりたかったことに手をつけることができるのである。


高校の参考書を鞄から取り出し、目覚まし時計を机の上に置いて、少なからず部屋のスペースを取っている勉強机の上でシャーペンをカリカリと動かす。


 エビノは勉強があまり好きでは無い。めんどくさいとか、無駄とか、理由では無い。

正確に言えばエビノは長時間の作業が嫌いなのである。


ある一つの作業をすると自分がその作業の概念に溺れて紛れて自分が居なくなる気がしてならないのだ。


 学生の身分であるエビノは勉強というものから逃げることができない。

 中学生の頃に、世界から帰ってこれないと怖がって数学の時間中に騒いでしまったとき以来、彼女は目覚まし時計を持ち歩いている。


彼女は目覚まし時計に私は何時何分に帰ってくると意思表明するのだ。そして帰ってこれない時はアラームに引き戻してもらう。


エビノが最も嫌う行為は寝ることだ。エビノは寝ると毎回夢におちいる。

見る夢はいつも同じで、どこか知らない森に迷い込む夢を見るのだ。帰ってこれないようになる気持ちになるこの夢は自分のストレスの現れだと思うエビノは、森への彷徨い具合で自分のストレスをはかっているのだ。


 アラームが鳴り響く。


「今日は珍しい。あの夢で人に会うだなんてな。」


 朝焼けの差し込む部屋で、その独り言はアラームにかき消されていくのであった。

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