覇夢王《はむおう》 ~宇宙の釈迦の会~

木下源影

第1話 雅無陀羅《がむだら》大学の学食で…

いつもの夕方の学食は今日も混んでいる。


だが、オレの周りには誰もいない。


理由は簡単で、これからすぐに夜間部の授業が始まるのだ。


みんなは調理室のカウンターに沿ったテーブル席に座るので、


オレのいる窓際には誰もやってこない。



この大学は昼、夜の部の授業がある。


当然生徒も別なので入れ替えをするのかと思いきや、


そんな面倒なことはしない。


この大学の学生であれば、誰もが受けたい授業を受けることが可能だ。


これでこそ勉強の場だとオレは常々思っていたので、


学費は高いが迷うことなくこの大学を選んだ。



両親が他界したオレには、考えられないほどのカネが手にはいった。


そして、遊びがてらに宝くじを買うと全てが当る。


高校三年当時は何か悪い事でも… などと普通に考えたが、


この大学に通うようになってからさらに運気が上がったように感じる。



この学校に休日は存在しない。


勉強が大好きな学生にとってはいうことない学校だ。


よって、朝9時から夜11時まで、校内をうろつけば必ず教室に明かりがともっている。


だが当然、ほかの学校よりも厳しい掟はある。


247日以上、一日四講義以上、授業を受けなければ進級できない。


よって年間、108日の休日は取れるようになっている。


授業内容はもちろんのこと生徒にあわせてはくれないので、


緻密な予定表を確認してから登校しなければならない。



だがオレは毎日この大学に来ている。


目的の半分はこの学食だ。


そこらの定食屋よりも確実にうまいので、


朝食だけここ以外で食べれば食には困らない。


ちなみのこの学食はオールフリー、全て無料なのだ。


当然のごとく授業料が高いので… などと思われるだろうがそうではない。


全て、この学校への寄付金で賄われている。


ちなみにオレも10億ほど寄付した。


降って沸いてきたカネなので、特に惜しいとも思わなかった。


よってオレは堂々と引け目を感じることなく


この学食で毎日うまい飯を喰らっている。



学食の閉まる時間は午後7時。


まだ余裕があるので、オレはうまいコーヒーをコーヒーサーバーから注ぎ、


いつも座っている席に戻った。


なぜここに座るのかといえば全く意味はない。


だが、ここに座れと誰かが言っているような気がするのだ。



『今日からよろしくお願いします』



オレのいる周りではっきりと鈴が鳴ったようなすてきな声でお願いされた。


オレは後ろは当然のこと辺りを見回した。


だが、3メートル以内に誰もいない。


妙だな、と思いながらコーヒーカップを口に近づけると、


目の前にヒトがいた。


ほんの一秒前にはいなかったはずだ。


オレは驚いたのだが、目の前にいる少女に近い女性を観察した。


そしてオレは、左肘をついて顎を乗せ、右を向いて窓の外を見る振りをした。


「…あのぉー…

 今日は私です。

 どうか、よろしくお願いします」


オレは外を見る振りをして女性を見ている。


「こんなポーズでゴメンね。

 誰もいないのにひとりで話すとみんなに変な眼で見られてしまうから」


「はい!

 もちろんわかってましたわっ!

 …でも私、驚かれちゃうって思ってて…」


「十分驚いたよ…

 オレはできれば目立ちたくないからね。

 これでもかなり我慢したんだよ。

 …さっき、君の声ではない人にお願いされたんだけど、心当たりある?」


「…あのぉー…

 ごめんなさいっ!!」


女性は目一杯の声で言い放ち、頭を深く下げた。


「…言ってはならないって、言われちゃって…

 修行を積んで欲しいからって…」


オレがやっている修行で思い当たることはひとつしかない。


オレはこれだけのために生きていると言っても過言ではないからだ。


「どういうことだかなんとなくわかったよ。

 だが問題は、君とどう関係するかなんだけど…

 …まあいいか。

 これも修行ということで。

 …今夜、よろしくね」


女性はほほを赤らめ下を向いた。


そしてその姿はオレの目の前からこつ然と消えた。



幽霊がオレに何の用だろうか…


オレの夢とどう関係するのだろうか…



オレは毎晩必ず夢を見る。


こうなったのは一年前で、この大学に入ってからだ。


オレの見る夢にそれほど特徴はない。


しかしオレはまるでゲームのようにオレ自身や辺りの物を操れるのだ。


まるでバーチャルリアリティーのようだと、


趣味のようにして毎晩楽しんでいる。


今夜の夢の登場人物が今出てきた幽霊の女性…


幽霊とは初対面だが、人間もいれば動物もいる、虫だっている。


幽霊がいても問題ないだろうと、


オレは常にオレの心の中でつぶやいている。


なぜこれほど肝がすわったのかもよくわからない。


これも、一年前にこの学校に来てからのことだと思っている。


だが、学生生活自体はごく普通だと感じている。


学長がかなりの美人だということ以外、


この大学に特に変わった節はないのだ。



また誰か出てくるのかもしれないと思いながら、


午後7時になる5分前までねばったが、


もう誰もくる気配はないので、


オレは席を立って空の食器の入ったトレイを手に取った。


… … … … …


オレの一日の生活は単調だ。


学校に行ってひたすら勉強して、家に帰って寝る。


ほぼこの日程でオレの一日は終わる。


オレはベッドに入り、ゆっくりと眼をつぶった。



するともういた。


今は夢の中でここはオレの部屋だが、学食で出会った幽霊の女性が、


存在感タップリでかなりみだらな表情と姿勢でオレを見ている。


「やあ。

 これってオレの部屋だけど、ここでいいの?

 変更もできるよ?」


「…ああ…

 …はい…

 …ここがいいですぅー…」


年齢などを聞いた方がいいのかと思ったが、


野暮なことを考えることはやめて、


彼女の望む行為にゆっくりと移行した。


「…あんっ!

 …いやんっ!!」


軽く胸に触れただけだが、彼女はかなり敏感に反応した。


いろいろと考えることはあるが、


それは後回しにしてオレがしたいように彼女を操った。


「…もうっ!

 もうダメッ!

 …こ、これを…

 これを下さいっ!!」


彼女は右手でオレの大事なものをしっかりと握っている。


オレは逆らうことなく、彼女をゆっくりと抱き締めて、


天井を向いているオレの腰にゆっくりと乗せた。


彼女は一瞬、「イヤンッ!!」と艶かしい声を上げてから、


妖艶なダンスのように腰を動かし始め、


「…逝くっ!

 …逝っちゃいますぅ―――っ!!」


といって、激しく痙攣を起してオレにもたれかかり、


「…ああ、ありがとう、ございました…」


とオレに優しい笑みを向けて、ゆっくりと姿を消した。



オレはここで考えることにした。


オレは彼女を昇天させるための存在なのかと。


普通は悪霊払いなどであるべき場所に戻すのだろうが、


彼女の望むことをして満足させてまた新たな生を受ける。


オレは一体なんなんだと考えてしまった。



だが、かなりの美少女だったので、オレとしては満足だった。


そしていきなりいつもの様に訳の分らない夢が始まった。


… … … … …


「…ねえ、結城君…

 …お願い… あるんだけどなっ!」


彼女は幽霊ではない。


今は午後12時を少し回っていて、


学食の席で座っているオレの隣に立ってポーズを決めている女性は人間で、


この大学のミスキャンパス、御陵詩暖みささぎしのんだ。



オレはごく普通に詩暖に向かって笑みを浮かべた。


「オレのできることなら何でも」


詩暖は喜び勇んで、オレの左腕を彼女の両腕で取った。


「彼氏になってっ!!」


彼女は満面の笑みでオレに言った。


オレは一瞬だけ考えた。


「悪い、それは無理だ。

 今日も女性と会うはずだから」


詩暖は、


『…なななな、なんだってっ!

 私が振られるはずがないっ!』といった顔をして固まってしまった。


「ほかのことだったらいいよ」


オレが気さくに言うと、


詩暖は信じられないものを見るような顔をして、


猛然としたスピードで走って学食を出ていった。



オレの予感が正しければ、また夕方この席に幽霊が現れるはずだと踏んでいる。


よってオレはウソは言っていない。


「…おい、こら、覇王はおう

 お前、詩暖に何言って泣かせた、こらぁー」


コイツはオレの幼な染で腐れ縁の存在感満載の安藤麗子あんどうれいこだ。


名前に似合わず、女のはずだがかなり男っぽい。


顔はオレ好みでそしてかなりの美人で、


しかも気心も知れているのだが、付き合っているわけではない。


「彼氏になれと言われたから断っただけだ」


オレが言うと麗子は少し驚きそしてにんまりと一瞬笑ってから、


すぐにその表情を引き締め、マジメ腐った顔になった。


「…ほ、ほう…

 お前にもやっと春がやって来たと思ったんだがなぁー…」


だが、自分の欲望に耐え切れなかったのか、


麗子は満面の笑みとなり上機嫌だ。


麗子がオレに気があることは当然知っている。


理由は簡単、かなりわかりやすいからだ。


オレも麗子が好きなので、デートにでも誘おうかと思った矢先、


先に幽霊に出会ってしまったのだ。


「別に今は彼女はいらないよ。

 この先、オレに彼女ができなかったらなってくれるんだろ?」


オレはごく普通に麗子に告白した。


「うん、なるよ…

 …えっ?!」


即答して自分の口から出た言葉が信じられなかった様で


麗子は真っ赤になって一瞬固まり、


オレの後ろ頭を思いっきり平手で張り倒してから、


走って学食を出ていった。



オレはかなり痛むうしろ頭をさすってから、これも修行だと思いつつ、


うまい昼食にやっとありつけた。


… … … … …


時刻は午後6時。


オレはまた学食にいる、


そしていつもの席に座った。


なんだか喰ってばかりだなと思いつつも、うまそうな肉じゃがに手を付けた。


「…今夜、どうかよろしく…」


かなり雰囲気のある幽霊がオレの目の前に現れた。


オレは昨日のように頬杖をついて外を見ている振りをした。


「…昨日の方とは別なんですね。

 すると、昨日の方は昇天されたようですね…」


「ああっ!

 そうなのですねっ!

 …ああ、あなたしか、

 私にはあなたしか見えないっ!!」


多分、あんたのことはオレしか見えてないよ、と考えると、


彼女は満面の笑みになった。


この状況を考えるに、


オレは言葉を発さなくでも幽霊には通じるんだなと感じた。


そしてこの女性は幽霊ではないと感じた。


「…ああ…

 申し上げ難いのですが…

 一応、神をやってますぅー…」


何の神様ですか? とオレが考えると、桜の木の神だといった。


それはいなくなったら困るのでは? と考えながらオレは食事を再開した。


「…いえ、それは…

 そうなのですけど…

 きっと誰かが代わりに…」


誰ですかそれは? と考えると桜の木の神はかなり焦ったようだ。


『代わりはおります。

 ご安心を…』と優しい例の声が聞こえた。


女性は喜んで、オレに礼をいったあと姿を消した。


また聞こえたな、誰だろう… と考えたが返答はなかった。


… … … … …


翌日の午後6時。


いつもの学食の席に座っていると、


おどろおどろしい女性が目の前に現れた。


オレは食事をしながら、あなた、悪霊ですよね? とオレが考えると、


「なぜわかったっ!」


といってオレに喰らいつきそうな勢いでオレに顔を寄せた。


いや、雰囲気で。それに、普通の人間でも多分わかりますよ。


と考えると、悪霊憑きの女性はしくしくと泣き始めた。


今夜優しくしてあげますから、泣かないで下さい、


とオレが考えると彼女は勝手にすてきな妄想をして昇天してしまった。


こんなのもありなんだ! とオレはかなり愉快な気持ちになったあとすぐに、


成仏してくださいと集中して祈った。


すると別の女の物の怪が目の前に現れた。


どうやら必ずひとりは夢の中で昇天させる必要があるんだなとオレは察した。


… … … … …


翌日の昼、大人しく昼食を摂っていると、激怒した麗子が現れた。


「…彼女、いるんじゃない…」


麗子はまさに女らしく涙を流しているが、かなり男前でもあった。


「付き合っている彼女はいない。

 詩暖さんには、今日も女性と会うはずだから、

 といっただけだぞ。

 オレには恋人がいる、などとひと言も言っていない」


どうやら麗子には屁理屈に聞こえたようだが、オレは真実を語ったまでだ。


麗子は少し考えて、笑みを浮かべて調理室前のカウンターに駆けて行った。


そしてあっという間に適当におかずなどをトレイに乗せて戻って来た。


「ここで食べちゃおぉーっと!」


妙に女らしくなってしまった麗子にオレは感動してしまった。


「やればできるんだな。

 そんな顔、始めて見たな」


オレが言うと、麗子はまたオレを殴ろうとしたが、


その手を降ろして愛想笑いを浮かべ、


鼻歌混じりで食事と格闘していた。


… … … … …


こんな日がひと月ほど続いた午後6時の学食のいつもの席。


麗子がつきまとうのではないかと思っていたが、全くそんな気配はない。


昼にはいつもこの学食でデートのような昼食をしているので、


それだけで満足なのかもしれないとオレはひとりほくそ笑んだ。


すると目の前に神々こうごうしいお方がいきなり現れた。


オレは、眼が点になった。


「…あのぉー…

 失礼ですが、ご同業の方で?」


オレが小さな声で言うと、彼女は満面の笑みでオレを見ている。


「今日まで49名の尊い魂を転生して頂きました。

 今夜は私の番ですわっ!」


その神々しいお方は、観音菩薩だった。


「…まあ、あなたも修行中の身ですが、

 性欲はすでに…」


「…いいえ…

 これはね、私の意思で取っておいたの…

 きっと素晴らしいお方に成仏させていただけるって信じていたのっ!!

 …ああ、私、ついてるわぁー…」


観音菩薩はかなり感情を込めて両手の指を絡めて天井を見上げた。


「あ、私、魂徒羅こんとら観音菩薩よっ!

 よろしくねっ!

 そうそう!

 あなたのお名前、思い出せたのかな?」


「いえ、思い出していません。

 ですが、予測はできています。

 覇夢王はむおう…」


「はいっ!

 大正解っ!!

 …今夜、優しくしてねぇー…」


「ああ、ここで成仏される方もおられますよ」


魂徒羅は笑顔のまま姿を消した。


どうやら、言葉だけで昇天したくはなかったようだ。


… … … … …


「…デート、とか…」


昼下がりの学食で、


麗子は小さな声でずっとお経のようにこの言葉を繰り返している。


「…うーん…」


オレは声に出してうなった。


すると、麗子は眼を輝かせてオレを覗き込んでいる。


「今って、デート、だよね?」


あまりいい予感がしないので、オレは言葉と体ごと麗子から逃げた。


『いいのよ。

 いってらっしゃい』と、また優しい例の声が聞こえた。


麗子はオレをふくれっ面でオレを睨んでいる。


「明日の午後5時までならいいよ」


「何よそれ…

 …その先が、楽しいんじゃなぁーい…」


麗子は言ってから真っ赤になって異様に照れている。


「おいおい、色っぽいな。

 今やってやろうか?」


当然やるわけはない。


麗子はぼうぜんとしながら涙を流し始めた。


今やれっ! ということなのだろうかとオレは真剣に考えた。


「…ううん、なんだかね…

 邪魔しちゃダメってね、誰かがいったような気がして…

 それにね、私のこと、本気で…」


麗子はわんわんと子供のように泣き始めた。


当然オレは困ったが、これも修行だと思い、麗子の頭を優しく撫でた。


… … … … …


さらに3ヵ月後。


一体オレは何人の女性を逝かせたのだろうか… と考えていると、


『今日で333人目です』


と例の優しい声だけが聞こえて、そのあとすぐにオレの目の前に、


信じられないお方が姿を現された。


オレはすぐさま頭を下げたが、瞬時に勝手に頭が上がった。


「…学長…

 まさか、あなた様は…」


『私も修行不足なのです。

 知りませんでしたか?』


「…そんな…

 そんなはずはありません。

 仏陀様は…」


『私たちは夢の世界に住んでいます。

 そしてやっとあなたが生まれた。

 なので、私も含め、修行者たちもこの最後の難関を越えねばならないのです。

 …あら?

 あなたにとって、と言い換えた方がよろしいかしら…』


オレは冷汗が出た。


これはこれでいいのかと何度も繰り返し考えた。


『これが正しいのです。

 ですが、あなたの方がさらに修行を積む必要があるかもしれませんわね。

 あなたもまだ未熟です。

 ですが、この世に生を受け、たった一年で成し得たことではないのです。

 あなたは前世もそのまた前世も、ずっと修行をしていたのです。

 その修行の積み重ねを、私にぶつけてくださいませ』


仏陀は軽く頭を下げて姿を消した。


この大学、どうなるんだろう… とオレはばかげたことがまず頭に浮かんだ。


… … … … …


今はオレの夢の中…


「…千手観音菩薩の数千倍緊張していますっ!!」


オレが言うと仏陀はくすりと笑っただけだ。


オレはいつも通りになろうと精神統一をした。


やはりまずは触れないとどうにもならないと思い、仏陀を引き寄せ抱きしめた。


「…ああ、やはり…

 優しいわぁー…

 心が洗われました…」


この言葉で、オレは完全にいつも通りのオレになった。


だが敵は、いや、敵ではないが、


仏陀はほほえんでいるだけで全く性欲がないように思えた。


当然いつもの様に扱ったが何をしても笑みだけだ。


少々困ってしまったが、


ベッドに寝転がり横を向いてオレを見ている仏陀を見て、はたと気づいた。


これがダメなら修行のやり直しと決め、オレは小物入れを探った。


死んだ父と母の大事な品だ。


だが、見た目はそれほど大したものではない。


オレはそれを手に持ち、ライトを付けた。


そしてオレは、仏陀の耳掃除を始めた。


仏陀は予想外の展開に身をよじり始めた。


左の耳を終えて右の耳の掃除を始めると、今度は声を出して喘ぎ始めた。


今しかない! とオレは思い、オレの知る全てを仏陀にぶつけた。


「…ああ、そんなぁー…

 ひきょうですぅ…

 あうんっ!!

 あんっ!

 やんっ!!

 …早く、これをっ!!

 これを!!

 もうっ!

 もうっ!!

 逝っくぅ―――っ!!」


同業者ならともかく、さすがに仏陀との合体はしないでおこうと決めていた。


だが、きっとこの先、いつになるのかわからないが、


この続きがあるはずだとオレは思っている。


仏陀は金色に光る星くずをきらめかせて昇天した。


… … … … …


翌日、大学は何も変わっていなかった。


学長も以前のままの存在感だが、


中身はどうやら位の高い観音菩薩だとオレは感じた。



10ヵ月間、週に一度となった物の怪の類の昇天の儀を楽にこなし、


オレと麗子はすでに恋人となっていた。



仲良く学食で昼食を摂っていると、テレビがとんでもないニュースを流し始めた。


「ネパールの山奥で、

 『天上天下唯我独尊』と叫んで赤子様がお産まれになられました!」


この報道に誰もがあっ気に取られている。


当然、オレもだ。


話しによるとかなり位の高い僧の夫婦が無受精で産んだと発表された。


そして、


『覇夢王よ、すぐに参れ』というメッセージも同時に言ってのけたそうだ。


オレは呼ばれたからにははせ参じようと思い、すぐさま旅券を取った。


「麗子、婚前旅行、行かないか?

 あまり色気のないところだけどな」


「どこでもいいわ!

 …ネパールって、どこの国にあったのかしら…」


麗子は分けのわからないことを口走ったが、オレはそんなことはお構いなしで、


麗子を連れて旅支度を始めるために家に帰った。

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