第24話【身から出たサビ】
生い繁る草木を薙ぎ払いながら、けもの道を進む一行。
昨日とは打って変わり、一切の魔物、魔獣との遭遇が無い。
これは【
まぁ、何にせよ、要らぬ戦闘を避けられるのであれば、この際、理由なんて何でも構わない。
けど、数名ほど、この状況を好ましく思っていないのもいますが……。
ダリオと今回、私の用件の為に傭兵団から選び連れて来られた団員達は『暇だ』『貧乏クジ引かされた』などと不満を並べていた。
はぁ、呆れるくらい戦好きの戦闘狂集団ですね。
それに、昨日の今日だと言うのに、傭兵団の面々に、疲れの色が全く見られない。
有り余ってる、その体力、私に分けて欲しいくらいですよ。
私の場合、昨日の夜は散々でしたから……疲れを癒す為、温泉に入ったのに、全くもって疲れが取れてない。それどころか、逆に疲れが溜まる一方だったし、ほんと、災難でした……。
最後の方は、意識が朦朧としてて、エイブラムが、何を話してるのか全然、耳に入ってこなかったな。
それでも【
エイブラムの話では、元々【
それが事の発端、術者の制御を失った【
しかし、制御不能に陥ったとは言え【
後、【
そして、術者の死後【
やがて【
これこそ、最近の【
快楽的嗜好を満たす、いつしか、それが目的化してしまえば、人間の居る場所を目指そうとするのが自然の流れ。だから、
それよりも、私もダリオ達のこと、とやかく言う資格がない。疲れの所為か、さっきから、眠くて眠くて必死に欠伸を咬み殺すだけで儘ならない。
どうにも、緊張感の欠片もない、お粗末な状況に陥ってしまってる。
それもこれも、この男が……。
私の前を歩くエイブラムの背中を恨みがましく睨み付けてやった。
そんな折り、不意に沸き上がった疑問。
あ、そう言えば、エイブラムって確か、最初【
私は【
でも、あの時、エイブラムは嬉々として、水晶球に駆け寄ってましたよね。もしかして、エイブラムの目的は【
「ダリエラ、どうしましたか? 先程から黙り込んで、御気分でも優れないのですか?」
一人、心内で疑問の解消をしていたら、そんな私の様子を伺っていたのかエイブラムが、声を掛けてくる。
ここで、あの時の事を聞くことも出来ますが、それを聞いてしまえば、昨日の二の舞、終わらない独演会が始まりそうな予感。
なので、敢えてココはスルーするのが吉だと判断します。
「お気遣いありがとう御座います。私は至って元気ですよ」
私はニンマリと笑みを見せて、元気だとアピールした。
「それなら、良かったです」
それを見たエイブラムは、一安心と言ったところか、硬い表情を柔らかくする。
「おい、そろそろ、目的地が見えて来たぞ!」
先頭を歩くダリオが私達の方へと振り返り、そう言ってくるのだけど、何故なのか、ダリオの漂わす雰囲気に、その言葉尻に、若干の苛立ちが含まれるのを感じた。
ダリオは、私とエイブラムを交互に見たら、何か言いたげに口を開こうとするも、それを押し込めるよう息を呑み、再び前を向く。
アレ? 何時もなら、何かしら突っかかってくる筈なのに、なんか、らしくない。ってか、そんな図体して、しおらしい態度取られても、反応に困るし、気持ち悪い。
その煮え切らない態度、何だかイラつきますね。
一つ文句を言ってやろうと、口を開く、その時、ダリオが、歩みを止めて立ち止まると、ワナワナと震え出し——!
「ああっ! やっぱ、無理だわ!」
そう叫んだら、勢い良く此方へと振り向く!
突然のことに、面食らう私は、吐き出そうとした言葉を呑んでしまう。
ギロリと私とエイブラムを睨むダリオ……。
「テメェら、おかしい、どうにもおかしいぜ。俺の勘がそう言ってる。昨日の今日で、その距離感は、どう考えたって、おかしいぞ! 只ならぬ雰囲気……昨日、絶対、ナニかあっただろ?! じゃねぇと、説明がつかん!!」
凄い剣幕で、私達に躙り寄るダリオ!
「はぁ? 何を言ってるんです?」
私は片眉を上げて、呆れるように言う。
「そ、そうですよ。団長さん。何も無いですよ」
私に次いで、エイブラムも、そう言葉してるけど、平静を装おうとする姿が、ぎこちなく、薄笑み浮かべていた。
エ、エイブラム、それじゃ、まるで、私と何かしら、あったみたいでしょ!
「おい……旦那。やっぱ、おかしいだろ。その反応!」
うう、確かにエイブラムは、朝から変でしたよ。やたらと私を気にかけては、優しげな声を掛け来ましたし、多分、原因は昨日のアレだと思います。けど……ナニもなかったし!
「違います! ナニも無いから! ホントにナニもないですから!」
嗚呼、何、必死に取り繕ってるんですか、私は。
昨日も、こんなやり取りしてたましたよね……違うのはエイブラムの様子、何考えてんるんですか。もう、これでは墓穴、掘ってるだけだし!
「怪しいぜ。怪し過ぎる! 何故、其処まで頑ななんだ? ま、ま、まさか?! テ、テメェらは! ヤッちまったのか!」
眼を血走らせ、顔を真っ赤に、ダリオが言い放つ!
この男、よりにもよって、下衆いことを考えてくれちゃってぇ!
「ちょっと、ダリオ! 下衆な勘ぐりは、止めて下さい! 私を含めエイブラムにも、それ失礼ですよ! ね、エイブラム!」
「え、ええ、まぁ……」
私の問い掛けに、何だか悲しげなエイブラム。
お、おい、そこは強く否定してくれないと。益々、ややこしくなるから!
「へっ、口では何とでも言えるわな……ま、証拠でもありゃ、別だがな」
ダリオは、明らかな疑心に満ちた目で、私を見てくる。
くっ、うぅ、変な言い掛かりつけられて、私とエイブラムが……だなんて、嫌過ぎる。
このままじゃ、ダメです! 汚名は晴らさねば!
「証拠……ですか……ええ、証拠ならあります! 私自身が、その証拠です!」
私は胸を張り上げて、高らかなに宣言した。
「はぁ? 何、言ってんだ?」
意味不明だと言った感じで、ポカンと私を見つめるダリオ。
「私は、今まで誰一人として、この
そう、必死に訴えると同時に、
『えっ……』
『おっ……』
『マジっ……』
と、全員が驚愕しながら、私を注視してくる!
……はっ?! し、しまった。頭に血が上り過ぎて、とんでもないことを口走ってしまった!
「お、てっきり魔女って、言ってたからよ。そうか、そうか……処女か。フッ、そりゃ、悪かったな。ダリエラ……」
ダリオが、何故か慈しむように遠くを見つめながら、微笑み掛けてくる。
そして、エイブラムを除く、団員達、全員がイヤらしくニヤつき出したのがわかった。
う、言ってしまったのは、後の祭りだけど、コイツらのニヤつき顔が鬱陶しい、ウザい、ムカつく、最悪、全員、消えてくれ!
うぅ、ホントに消えて欲しい……恥ずい、何で私が、こんな目に……あ、そうだ……。
私の中の張り詰めていた糸がプチンッと切れた。
「フフッ……だったら、消しちゃお。コイツら、みんな消してやったら、万事解決。汚点も無くなるし、うん、そうしよう……フフッ」
私は、感情のない笑いが溢れ出せば、ブツブツ口籠りつつ、皮のリュックより鉱石を取り出した。
「お、おい、ダリエラ。その両手に持つ【爆轟石】で、何しようってんだ?」
私の様子を訝しむダリオ。
「フフッ、これでオマエらを、消してあげますから……」
「ま、マジか? ちょっと待て、落ち着け! 落ち着けって……な、ダリエラ!」
私の行動の意味に気付き、あたふたしながらも、説得を試みるダリオ。
「フフッ、フフッ、フフッ」
「おい、ダリエラ、おい! ちっ、クソがっ!」
私の説得が失敗に終わると、ダリオは、苦い表情でジリジリと後退りし始める。
『や、やべぇ』
『魔女の嬢ちゃんが、キレた!』
『逃げろ!』
私の異変を察知した傭兵団の面々は、その場より散り散りに逃げ出す!
「逃さないから……」
深緑の森の中、そこかしらより轟く爆音と悲鳴が、辺り一帯に鳴り響いた!
入り江のように切り開かれた湖畔。
エメラルドグリーンの湖水に映し出される新緑が鮮やかに輝く。
ここだけ、時間の流れが別に感じてしまうような錯覚に陥ってしまう。
それくらい、神秘的な場所。
そう、ここは、私が最初に目指そうとしていた所【
「はぁ、久しぶりだよ。こんな力を目の当たりにするの……」
私の背負うリュックの上で、今の今まで蹲り寝入っていたオルグが、何かを見つけたらしく、物珍しそうに呟いてくる。
「え? 力って、どういう事です?」
「ああ、だだ単に、この湖畔、一帯の空間がねじ曲がってるんだよ。キョウダイも、ここへ来た時、違和感を感じただろ?」
「ええ、確かに……あっ、それで、空間がねじ曲がってるって、大丈夫なんですか?」
「そんなに心配しなくても害はないよ。外界と違って、少しばかり時間の流れが遅いだけだからさ。それにしても、聖獣と呼ばれるだけあって、凄まじい力を宿してるようだね」
へぇ、滅多なことじゃ、褒めないオルグが、これ程に感心しているなんて、流石は神獣クラスの怪物ですね。
それと、有難い事にオルグの反応から、こちらの泉に【
ふぅ、空間をねじ曲げる程の力を有する怪物か……私もなかなか大胆なことを言ったな【
想像するだけでも、億劫になる。
ともあれ、エイブラムが他の手立てがあると言ってましたし、今はそれに賭けるしかありません。
もし、仮にエイブラムの方法が駄目だった場合は【
今更、ウダウダと悩んだところで状況が一変する訳でもない。
どうせ、最初から分が悪い賭けなんです。
なら、一層のこと無様に足掻いて見せましょ!
そう考えたなら、より一層、腹が括れた気がした。
ジュリアン、待ってて下さいね。必ず【
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