猫魔女さん。

紅芋チップス

第一章〜弓闘士の森編〜

プロローグ【神様との邂逅】

 夢も希望も無くなったこの世界からおさらばする為に――――


 裏切り陥れ信じた奴がバカをみる、そんな糞みたいな掃き溜めの世界で生きてきた。

 そこから這い上がり外の世界へ行こうともせず、私は掃き溜めに両足を突っ込んだまま空ばかり見上げていた。

 だが、そんな私にも、大事なものが出来る。

 しかし、気づいた時に遅く、全部なくなってしまった。生きる事が苦痛でままならない。


 だから自ら死ぬことを選んだ――――


「最後の一服でもしますか」


 スーツのポケットから、くしゃくしゃに潰れた煙草と細かな傷が入った真鍮のオイルライターを取り出した。

 吹き付けてくる風を遮りながら、派手な金属音擦り鳴らし蓋を開けたと、同時にオイルライターへ火を灯す。

 そして、咥えたタバコへ火を付け、口を窄めて、煙を深く吸い込んだ。


「ガハッ……ゴホッゴホッ! ぐっん!」


 久しぶりの煙草で、むせ返り涙目になった。


「フッ、最後だって言うのに格好悪いですね。禁煙なんてするもんじゃないな……」


 何故だか可笑しくなり笑みが溢れた。

 さして、美味しいと感じなくなったタバコをポトリと足元へ落とし、革靴の踵でググッと踏み消す。

 私は、この街で一番高いと言われるビルの屋上にいる。

 仕事の為に、散々、人を騙し、欺き、数々の命を死へと追いやって来た。

 しかし、最後の最後に、自分自身の命を絶つ日が来るとは……クック、皮肉なもんです。

 心の中で自嘲しながら、私は空を見上げた。

 いい天気です。雲一つない青空。

 死ぬには申し分無い日だな……。

 屋上を取り囲む黒鉄色の鉄柵。

 私は、鉄柵に近づくと、ガシャガシャと音を立てながら柵をよじ登り、鉄柵の上へと跨がった。

 強風に靡く髪を抑えつけ、ふと、辺りの景色を見回す。それにしても、いい眺めだ。

 目下で広がる大小様々なビル群と、その隙間を埋めるよう造られた道路ミチは、正に人間が創りし芸術。


「冥土の土産に良い物がみれました……もし、私みたいな屑でも、生まれ変わる事ができるのなら、次こそは何のしがらみもない、自由な暮らしがしたいなぁ……」


 そう呟くと同時に、私は鉄柵から身を乗り出して屋上から飛び降りた。

 ビル風によって一瞬、身体が浮く。

 そして、地面に吸い込まれるようにカラダが落下し始めた。

 ゆっくりと目を瞑ると、頭の中を今までの出来事が走馬燈のように駆け巡る事は無かった……。

 私はカッと目を見開き!


「ガセでしたか! くぅおおお!!」


 目前に迫り広がる地面、まさに激突する瞬間———私の全身を淡い光が包み込んだ?!


 ん!?…………なっ、なんだ? どうなって?

 光が消えると真っ白く霞がかった、だだ広い空間が現れた。

 音一つしない静かな場所。私は、ぐるっと周りを見渡したが、ひと一人として姿が見えない。

 

「あぁあぁ、聞こえるかい? そこでキョロキョロしているキミ、そうキミだよ! ここには君しかいないから」


 男とも女とも取れる声が、何処からともなく聞こえてきた。

 この声は私の事を呼んでるのかな?

 とりあえず、この謎の声へ返事をしてみる事にした。


「誰ですか? 私に何か御用でも?」


 私はもう一度、周りを見渡しながら応えた。


「ほっ、僕の声が聞こえてるね、良かった。あっ! それから僕のこと探してたようだけど、キミに僕を視ることは出来ないよ」


 話から察するに、私には見えないが向こうからは見えてるようだ。

 カメラでも設置しているのか? 注意深く目を細めてカメラを探がしてみたが、何処にもカメラは設置されていな無かった。


「うーん、キミの行動を見る限り、まだ自身の置かれている状況を理解してないね。まっ! しょうがないか」


 声の主は、私の腹を見透かすように言ってくる。

 その言葉が、どうにも私に苛立ちを覚えさせた。


「その口ぶり色々知ってるようで……どう言う事か説明してくれますか?」


 私は語尾を強めてへ訪ねた。


「あっはは! 機嫌を損ねたのかい別に他意ないんだけど。おっと、話が本題から逸れてしまったね。キミは、まず知っておくべき事がある。それはね、キミはもう死んでるんだよ」


 声の主は事も無げに言ってくる。

 私が死んでる?

 そう、確かにビルの屋上から飛び降りたけど……しかし……今も、こうして生きている。

 私が自問自答していたら。


「混乱するのも仕方が無いか。簡単に説明するとね、キミが地面と激突する直前に、キミのカラダと魂魄を分離させたんだ。わかりやすく言うと魂ってやつだよ。実際は少し違うんだけど」


 タマシイ? 本当か? 新手の詐欺じゃないのか、クソッ何なんだコレは!

 頭を抱え唸っていると、


「その様子だと、まだ自分が死んだと言う実感ないんだね 。うーん、あまりやりたく無いけど荒療治が必要かな」


 声の主がそう言うと、突然、頭の中に映像が飛び込んできた。


 ん?……んっ?! なっ! くっ……ハァハァ


「お宅は! 何てもの見せるんです!」


「僕もこんな事したく無いよ。でもね。キミが自分の死を認識しないと、次の話に進めないんだよ」


 うぇぇ、気持ち悪るぅ。まさか、自分が死ぬ瞬間を見せらるとは……。

 その映像は、高層ビルから飛び降り地上へと激しく叩きつけられて、頭が風船の様に弾け飛び、肉片を派手にぶちまけた自分の姿。

 うぷっ……頭に映像がこびりついて離れない。

 私は深呼吸すれば、声の主に言う。


「ふぅぅ……まぁ、概ねは信じるとしましょう。けど胡散臭ささが、まだ残ってます」


「……と言うと」


「一つは何故あんな映像を見せたのか。死を認識させるなら、あのまま魂魄を分離せず自殺させた方が手っ取り早いでしょ。もう一つは私に姿を見せず色々語り掛けてくるあなただ!」


 私は声の主に語尾を強め言い放った!


「くっふふ、頭は回るみたいだ。しかし、キミって男は疑ってばかりだね。ニッヒヒ! あんな世界にいたんだから当然と言えば当然か」


 こいつは、いったい何者だ?


「無駄話はなしです。さっさと説明して下さい」


 私は、不快感をあらわにして口を開いた。


「そう邪険にしないでよ。今から説明するから、まずは、そうだね 。僕の事だけど、僕等は高次元生命体という存在で、この世界の管理 観察を任されているんだ。早い話、キミ達人間が俗に神サマと呼ぶ者かな。僕はこの神サマと呼ばれるのが凄く嫌だ。実際そんな大層な者じゃないしね。 あっ! あと僕は別に隠れてる訳ではないよ。人間には、僕を視認する事は、ほぼほぼ不可能だから、けれど、極稀に視える人間もいたかな。とりあえず、ここまでで質問したい事あるかい? 」


 急に神様って突拍子もない事を聴かされ、頭の整理が追いつかない。

 あっ?! そう言えば!


「そうですね、先程、僕等と言ってましたけど他にも、あなた見たいな存在がいるのですか?」


「うんうん、冷静に話は聴けてるようだね。僕の他にも仲間は大勢いるよ。世界は多元で無限に広がっているからね。その分だけ僕等は存在するから」


 いちいち、上から目線で腹立たしいが、神様と呼ばれる存在だからそんなものか。

 それと、他にも神様が存在するらしい。


「では、話を続けるよ。何故あの時キミの肉体から魂魄を抜き出しのか。まず、人間は肉体と魂魄が結び付いて、初めてこの世に存在する事が出来る。肉体と魂魄の結び付きはとても強く、肉体が傷つけば魂魄もまた傷つく、あのまま行けば、キミの魂魄もまたあの映像のように悲惨な事になっていたよ。そうならない為に、寸前で肉体から魂魄を抜き出し保護する必要があったのさ。キミには死んだと伝えたけど、正確には肉体のみ消失した状態なんだ。まだ完全なる死を向かえた訳ではないよ。でも、この世界のキミは、もう役目を終えたから死んだと認識する必要があったんだ。少しややこしいけど理解出来たかい?」


 現状は把握出来た。

 だとしとも、私を魂魄の状態で留めているのは、どういう了見だ?


「あの、あなたいったい何を企んでいる?」


 私は顔を訝しめ言った。


「あっはは! そんな警戒しなくても大丈夫だよ。今更、取って食おうなんてしないよ」


 確かに、今更、怖がってもしょうがない。

 私は死んだも同然の状態だった。


「それもそうですね。今更でした。だけど、わからないのは、この状態です。あなたは何をしたいんですか?」


「僕はね、この世界で特に人間が大好きなんだ。よく人間世界を覗いているのだけど人間ほど面白い生き物はいないよ! つい最近もキミの事を視ていてね。僕は視ている人間の過去を覗き見る能力があるんだ。それでキミに凄く興味が湧いたから暫らく追っかける事にしたんだよ。そしたらキミ、ん? どうしたの?……何か言いたそうだね」


 熱弁をふるっていた神様だが、私の様子を伺い訊ねてきた。


「……キモい ストーカーですか?」


「なっななな! しっししし失敬だな! ぼ、僕をストーカーという下衆と一緒にしないでくれ! 僕は神様と呼ばれる存在だ! その言葉取り消すんだ!」


 私の呟きに、物凄い取り乱しようだ。


「くっははは! 冗談ですよ。すみません ホントすみません」


 さっき神様と呼ばれるのが、嫌だと自分で言ってましたよね確か……。

 ほんと、人間臭くて面白い神様だ。


「僕を謀る何てキミのような人間、初めてだよ」


「ありがとうございます」


「別に褒めてないよ!」


「…………でっ さっきの続きです。結局、何が言いたいのか? 結論から先に言って下さい長話も飽きてきた 」


 私は話を急かした。

 すると、一呼吸して話しだす神様。


「ふぅ……せっかち人だな。しょうがない結論を言うとキミを転生してあげようと思ってね。まあ、普通の輪廻転生と違って特別サービスで記憶と経験を持ったままの転生だよ。それでココへ呼び寄せたんだ転生するかどうかはキミ次第だよ。さあどうする? 」


 転生ですか? そんな眉唾ものの話信じられない。

 まあ、どうせ、嘘だったとしても難ら問題ないか、今の私には……。

 その前に、訊きたい事があった。


「返答をする前にひとつ、何故、私を転生させようと思ったのか。理由を教えてくれませんか?」


「理由ねぇ。大した事ではないよ。ただ僕がキミを気に入ったからさ。あそこで死なすのは、おしいと思ったんだ。神様のきまぐれってやつさ。まっ、強いて言えばキミが死の直前に零した願望を叶えてあげようかなと。で、返答は如何に?」


 動機何てものは、いつも些細なもんだ。

 人生をやり直せるのか……魅力的ですね。

 なら答えは……。


「あなたの申し出を受けます。私を転生して下さい」


「そうかい! では、早速はじめようか。直ぐ終わるよ」


 そう神様が述べれば、私を中心として足下に輝く黄金の円が現れた。

 その内側に五芒星が有り、それを取り囲む様さまざまな、記号や文字が描かれる。


「これは、いわゆる魔法円と呼ばれるものだよ。キミ達の世界にも、色々と伝え広がってると思うけど、元々は僕等が創り出した物なんだ」


「映画や漫画の世界ですね」


「それと、キミが転生する所は、この地球と異なった世界だから、肝に銘じておく様に」


 魔法円がゆっくり回転して、私の身体を精査スキャンするよう足下から頭上へ移動し始めた。


「さあ、そろそろお別れだ。存分に第二の人生を謳歌してよ 」


 魔法円が、全身を精査スキャンし終えると、急に瞼が重くなり、意識が遠のいて行く。


「あっ! そうそう最後に一つ、僕を謀った報いは、受けて貰うよ」


 その言葉を聞くと、同時に意識が落ちた。

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