【裏昔話】退治したのは悪い者?
紅雪
第1話 かちかち山のたぬき
むかしむかし、たぬきが化けておじいさんをだましました。
おじいさんはすっかりだまされて、おばあさんを失うことになっていましました。
それを聞きつけたうさぎがたぬきへ仕返しをしたのです。
====
拾った薪を背負ったたぬきはうさぎと一緒に歩いていました。
うさぎはたぬきの一歩後ろを歩き『カチカチ』と火打石を鳴らしました。
「うさぎさん、どこかで『カチカチ』と音が鳴っているよ。なんの音だろう。」
「それはね、ここが『かちかち山』という名の山だからさ。」
うさぎは適当な理由をつけてはぐらかし、そっと、たぬきのせおっている薪へ火をつけました。
やがて火は大きくなり、たぬきの背中は大やけどをおってしまいました。
うさぎがわざと火をつけたとは知らないたぬきは別の日もうさぎを誘いました。
「海へ魚を釣りにいかないかい?」
「いいよ。」
うさぎはおおいそぎで泥の船を作り、たぬきに乗るようにいいました。
みるみるうちにたぬきの船は沈んでいきます。
「もう怒ったぞ。どうしてこんなことをするんだ。」
「たぬきさんが悪いんじゃないか。おじいさんをだました、仕返しだよ。」
なんだって
たぬきはおじいさんに仲間の仕返しをしたつもりでした
つい先日、仲間と共に人里のそばを歩いていた仲間がいきなり銃で撃たれました。
パーン
と乾いた音が一発聞こえたとおもったその時には、今さっきまで隣にいた仲間の体は木の葉のように吹き飛び、ピクリとも動きませんでした。
そばに駆け寄ってなめてあげることもできませんでした。
お別れをいうこともできませんでした。
形見の毛一本さえとってくることもできませんでした。
自分たちが逃げることに必死で、仲間のことは見捨てるしかありませんでした。
すぐに人間が仲間の体を無造作につかみあげて、持ち去って行きました。
草のかげからその様子をみていると、かつて仲間だったその肉を嬉しそうにほおばっています。
憎くて憎くてたまりません。
仲間を失った痛みを、同じ痛みをそいつにも与えてやりたくて、
たぬきは人間のすがたに化けておじいさんの家に行ったのです。
「僕らがなにをしたって言うんだい。
勝手に森を切り開いて、家を建てたのはそっちじゃないか。
それなのに、僕らがそこを歩いていたから悪いっていうのかい。」
撃たれたって当然だって。
辛くても、不公平でも、恨むなって、黙ってろっていうのかい。
そんなの無理だよ。
背中を焼かれたって平気だよ
海に沈められたって平気だよ
目の前で仲間を笑顔で食べられる、それに比べればなんてことないさ
僕一匹をやっつけたって終わりじゃないからな
僕らの仲間はたくさんいるんだ
僕がやられたら僕の分も、その次がやられたらその次の分も、ずっと、ずっと、最後の一匹になるまで戦い続けてやる
それを聞いたうさぎは提案します
「やめなよ。お互いに、話し会えば、譲り合えばきっと、」
血は流れないって?
わかり合えるって?
たぬきは首を横に振りました。
そんなことはない。
いや、たとえそうだとしても
あの日救えなかった仲間にそんな姿は見せられない。
うさぎが「でも、」と食い下がろうとしたその時
おじいさんとたぬきの目が合いました。
おじいさんが銃を構えます。
たぬきはおじいさんへむかって全速力で走りました。
爪が一筋、かするだけでもいい
自分のこの手で、何か、
あの日の君にはもう何もしてあげられないから
銃声は山までこだましました
たぬきの体には大きな穴があき
それでもおじいさんのほうへ両の爪を向けた状態で倒れていました
「ばあさんと食べたタヌキ鍋、最高だったなぁ。」
遠い目をしたおじいさんの、つぶやきはさざ波に消され誰にも聞こえなかったでしょう。
やって、やりかえして
そこに「めでたしめでたし」の物語は
生まれてこないと思うのです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます