16

 一日目は、山登りと肝試しで、疲れていたのだろう。宿泊所に戻ってすぐに風呂に入り、それぞれの部屋へ移動したオレたちは、布団に入るとすぐに寝てしまった。部屋は男女別に分かれていて、四人部屋になっていた。二段ベッドが部屋の両端に置かれ、オレは二段ベッドの上を使わせてもらうことにした。


 同じクラスの男子と一緒に泊まることなど、珍しい体験だというのに、何か話すことはなく、あっけなく夜が明けてしまった。女子たちは、コイバナなどで盛り上がったのだろうか。


 別府えにしとくそ女は、泊まる部屋も同じだった。二人は仲が悪いように思えたが、そこに一緒になる女子たちとどんな会話をしているのだろう。彼女たちのことは気になったが、彼女たちがどんな会話をしているのか聞く勇気はなかった。




 朝食の時間になり、オレたち男子と女子が合流する。


「おはようございます。こうたろう君。昨日はよく眠れましたか。」


「おはよう。昨日は案外疲れていたみたいで、すぐに寝ちゃったよ。」


 別府えにしとたわいない会話をして、朝食を食べるために指定された席に着く。


「おはよう。こうたろう。」


「おはよう。なんか、元気がないみたいだが、どうしたんだ。」


 彼女に続いて、くそ女もオレに挨拶する。くそ女は寝不足なのか、顔色が悪く、つい体調を気遣う言葉をかけてしまった。


「心配してくれるんだね。やっぱりこうたろうは優しいね。」


 ふわりとはかなく微笑んだくそ女に、どきりとしてしまった。






「今から、君たちには、いかだを作ってもらいます。施設の担当者の方に、いかだの作り方を教えていただきます。皆さん、指示に従って、楽しくいかだを作っていきましょう。」


 今日は昨日と打って変わって、どんよりとした曇り空だった。雨が降るほどの雲ではないが、風も少し出ていて、嫌な天気だった。


「まずは、材料を取りに来てください。」


 施設の担当者がいかだの作り方を説明していく。班長であるくそ女が率先して、材料をもらいに担当者のいるところまで歩いていく。とはいえ、材料はたくさんあり、オレたちもくそ女に続いて、材料を取りに向かった。いかだは、タイヤと細く切られた木の板をロープで括り付けて作ることになっていた。



「このように、タイヤと木の板をロープで固定していきます。しっかり結ばないと外れてしまいますので、力を入れてしっかりと固定しましょう。先生方、確認の方をお願いします。」


 施設の担当者の指示に従い、いかだを作っていく。手を動かしながらも、やったことのない体験に、つい興奮してしまう。それは、別府えにしも同じようだ。


「普段、体験したことのないことをするのは楽しいものですね。ふふふ、出来上がって海に出るのが楽しみです。」


 楽しそうにいかだづくりに取り組む彼女に、つい笑顔になってしまう。それが気に入らないのはくそ女で、その場の雰囲気をぶち壊す発言をする。


「ああ、こんな面倒くさいことの何が楽しいんだか。曇りとは言え、紫外線もあるし、日焼けちゃうじゃない。」


「オレは、えにしと一緒で楽しいと思うぞ。でも、これで本当に海に出て大丈夫なのか。」


 オレたちは、そんなくだらないことを話しつつも、黙々と作業を進めていた。オレたち三人以外の他のメンバーも、たわいない話をしながらも手を休まず動かしていた。





 いかだづくりは午前中に行われた。昼休憩をはさんで、午後からいよいよ作ったいかだで海に出る。昼食は、施設の人が作ったカレーだった。


「それでは、各グループで作ったいかだを海に入れていきたいと思います。」


 出来上がったいかだを海に浮かべていく。他のグループと同じように、オレたちの作ったいかだも海に浮かべたのだが。



「うわ。これ、なんか前に進まないんだけど。」


「出来上がった時から、嫌な予感はしていたけど……。」


「これは、どうにも失敗したみたいですね。」


「どうすんだよ。他のグループはもう、ずいぶんと海に出ていったぞ。」


「仕方ないだろ。こいでも、前に進まないなだから。」


「最悪ね。ありえないわ。」


 どうにも、オレたちにサバイバルの才能はないようだった。いかだが出来上がったのは良かったのだが、どうにも他のグループに比べて、形がいびつだった。タイヤと木の板はしっかりとロープで固定されてはいるものの、タイヤと木の板の配置がしっかりと均等になっていなかった。



「大丈夫かあ。ああ、お前らの班は、ずいぶんといびつに完成してるなあ。」


 担任の呆れた声が聞こえたが、それは事実であり、オレたちは苦笑するしかなかった。


 結局、オレたちのグループのいかだは、オールで漕いでも前に進むことができず、ふらふらとその場を漂うだけだった。それを見かねたのか、生徒の安全を見守っていた救急ボートが近くにやってきて、オレたちはそのボートに乗り移ることになった。



「これはこれで、良い思い出になりました。こうたろう君が意外に不器用だということもわかりました。」


「オレだけが不器用扱いかよ。それを言うのなら、オレたちの中に器用な奴がいなかったんだ。」


「ふふふ。そう言うことにしておきましょう。」


 いかだつくりは、散々な結果になり、別府えにしにも、笑われてしまった。どうにかかっこいいところを見せたいと思ったオレが期待したのは、夜に行われる夜の星の観察会だった。


 ここで、星についての説明ができれば、彼女にいいところを見せられる。オレは、自分が大して星に詳しくないことは忘れ、夜を楽しみに待つのだった。

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