15
夜は、肝試しが予定されていた。日が暮れてからも天気が良かったので、空には星がキラキラときれいに見えている。そんな中、オレたちはグループに分かれて、夜の森の中を歩いていた。
各グループに渡されたのは、懐中電灯が一つと、肝試しで歩くルートが書かれた地図だった。何か持ち帰るということはなく、宿泊する場所から、もう一つの宿泊所がある場所まで、途中の森を抜けて歩いていくというもので、純粋に夜の森の中を歩いて楽しむものらしい。
ゴールにたどり着いたら、帰りはバスに乗って、今日泊まる宿泊所に帰ることになっていた。
「次の班は、スタートしていいぞ。」
先生から指示が出て、オレたちのグループがスタートすることになった。
「こうたろう、私って実は、暗いのとかダメなんだよね。それにここ、なんか出そうだし、歩くとき、ずっと手をつないでいてもいいかな。もしくは、腕にしがみついてもいいかしら。」
スタートしてすぐ、くそ女は怖がっているふりをして、オレの腕に自分の腕を絡ませようとしてきた。しかし、オレは知っている。くそ女は大のホラー好きだということを。暗いところも平気だし、幽霊などについても、平気なタイプである。幼馴染で、お互いに趣味嗜好はすでに把握済みだ。それなのに、わざわざオレに嘘を言ってきた。
「バカいうなよ。お前は、暗いのも平気だし、幽霊とかのホラー系も実は大好きだよな。それなのに、いまさら怖がる必要ないだろ。オレはお前と手をつなぎたくないし、腕も絡ませたくない。」
オレのはっきりとした拒絶に、くそ女がめげることはなかった。
「ええ、いいじゃん、別に。ひっついて減るものでもないんだし。要は思い出作りだよ、こうたろうはノリが悪いなあ。確かに私はホラー系も好きだし、今の状況はまったく持って怖くない。むしろ、今のこの状況を楽しんでるけどさ。女子は苦手な人が多いんだよ。ほら、見てみなよ。」
自分が怖くないことを認めたくそ女が、自分のことは棚に上げて、ある方向を指さした。くそ女が指さす方向には、別府えにしがいた。別府えにしは、不安そうに同じグループの女子に話しかけていた。彼女も大抵の女子と同じで、暗い所や幽霊などのホラーが苦手なタイプなのだろうか。そうだとしたら、くそ女の隣よりも、オレは、彼女の隣にいるべきではないか。
「そうだな。」
「こうたろうも、ああいうのが好みなのね。でも、あれはさすがにドン引きだよね。だって、こんなただの森の中、しかもただの遊歩道を歩くだけで、怖い要素ゼロじゃん。前のグループの歩いた後についていくわけだし。それに、ところどころ先生もいるっていう話でしょう。どう考えても怖い要素がないよ。それなのに、か弱いアピールする女子の神経がどうかとおも、う。いや、どこ行くの。こうたろう。まさか。」
くそ女は、先ほどの自分の行動を忘れたかのように、別府えにしの非難を始めた。しかし、オレは別府えにしが嘘をつくはずがないと思い込み、くそ女の言葉を無視して、行動を起こしていた。
「そのまさかだよ。お前は怖くないならそれでいい。でも、怖がっている人がいるのも事実で、それなら、オレは、その怖がっている女子のそばにいてあげるのが、最善の行動だと思う。」
それからのオレの行動は、いたって簡単だ。オレは別府えにしのそばに近寄り、彼女を至近距離で観察した。くそ女の言う通り、もしかしたら、本当は怖くないのかもしれない。最近の彼女を見ていると、そう思えるから不思議だ。でも、オレは否定したかった。そんなことをするような人間だと信じたくはなかった。オレが近づいてきたのに気付いた彼女がオレに視線を向けた。しかし、彼女が口を開く前に、彼女と話していた女子がオレに話しかけてきた。
「中里君、ちょうどよかった。別府さんは、暗いのが苦手みたいだから、一緒に居てあげなよ。私でもいいけど、やっぱり、そこは、ね。」
空気を呼んでくれただろう。オレはありがたく彼女の隣にいることにした。別府えにしは、その間、一言も話すことなく、じっとオレの様子を観察していた。
「おおい、こうたろう。いつまでそこで話してるんだよ。こんな面倒なこと、さっさと終わらせて、オレは早く布団に入りたい。」
オレと一緒にグループになった、オレと親しい男子が大声で叫びだす。オレたちは慌てて、歩き出す。
「ああ、つまらんな。女子はこうたろう狙いでなんともならないし、男子のもう一人はお前だし。」
「その割には、僕と一緒に歩くんだね。僕も、こんなことになるとわかっていたら、もっと早くグループを決めておくんだった。」
「私も、このグループは失敗だと思うよ。あそこの三人は盛り上がっているみたいだけどね。」
「珍しくお前たちに同感だ。」
オレと別府えにし、くそ女以外の三人は案外仲良くしているみたいだ。先に進み始めた三人と、その後ろをくそ女、さらに後ろをオレと別府えにしが追いかけるという構図に収まった。
肝試しの結果は散々だった。別府えにしはどうやら、怖がっていないことが判明した。完全に怖くないわけではないようだが、それでも、オレのそばにいるのに、まったくオレに寄り添うとかはなく、自分の足でしっかりと歩いていた。時々、風が吹いて、木々を揺らす音や鳥の声にびくっと驚いたりしていたが、それでも怖がっていないことは明白だった。
「怖がっていた方がよかったですか。」
オレが考えていることがばれているかのような問いに、どう答えるか迷った。とはいえ、正直に言うわけにもいかないので、適当にごまかすことにした。
「オレはどちらでも構わない。えにしが暗いところを怖がろうと、怖がらずに平気でも関係ないけどな。えにしはえにしだろう。」
「ふうん、」
何か考え込むような仕草で、別府えにしはその場に立ち止まる。
「そろそろいい頃合いかな。でも、肝心の引っ越しの話がまだ……。」
「引っ越しがあるのか。」
思わず、彼女の独り言のような小さなつぶやきを拾い上げると、しまったという顔で、彼女はオレの顔を見た。しかし、すぐににっこりと嘘くさい笑顔を浮かべた。
「ありますよ。だって、私の父は転勤族と呼ばれているほど、仕事の都合で引っ越しが多いですから。当たり前のことです。」
そういった彼女は、無表情だったが、何となく悲しそうな顔をしていた。しかし、それは気のせいだったかもしれない。次の瞬間の笑顔にオレは凍り付いた。
「でも、私は転校することが楽しいと思えるようになりました。」
顔を緩ませて笑う別府えにしは、悪魔か何かのようだった。
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