10

 一回目のテストが終わり、夏休みを目前に、中学一年生二回目のテストがすでに迫っていた。


 今回も前回と同じようにイケメンバカは別府えにしに勉強を教わると言っていた。わざわざ私にそのことを伝えてきたのだった。


「俺、今回もえにしに教えてもらうことにしたから。お前よりも勉強教えるの上手でさあ。将来先生になったらって提案してやったんだ。」


「ああそう。よかったわね。」


「そうしたら、えにしったら照れてんのか知らないけど、私には向いてないわって。マジかわいいよなあ。」


 会話がかみ合っていない。イケメンバカは別府えにしに夢中のようである。イケメンバカが別府えにしに惚れるのはわかるが、どうにもわからないのは、彼女の行動である。あたかもイケメンバカに好意を持って接しているように見えるが、何か裏があるとしか思えない。


 親切すぎるのだ。普通、自分の勉強をおろそかにしてまで、他人の、しかも出会って数カ月の異性に勉強を教えるだろうか。私なら絶対そんなことはしない。


 さらにはそのせいか知らないが、成績は良くなかった。まさかのすべてが平均点という結果である。それなのにまた、勉強を教えるという始末。


 別府えにしが何をしたいのか、イケメンバカを使って何をしようとしているのか。意図が全くつかめない。クラスメイトとして過ごす時間が増えれば増えるほど、わけがわからなくなる不気味な女だ。


 

 すっきりしない気分のままでは、当然テスト勉強も集中できない。さすがに全くできないというわけではなかったが、それでも万全の準備ができたとは言えないまま、試験当日を迎えてしまったのだった。


 しかし、テストに集中できないのは、別府えにしの存在だけではなかった。あるうわさがクラス内、さらには学年内に広まっていることも要因の一つだった。


 どうやら、別府えにしとイケメンバカがつき合いだしたという、まったくのでたらめともいえないうわさが広まり始めているのだった。まあ、広まるのも当然のことだと私は思っている。


 すでに一回目のテストから二人が仲良く勉強会をしているのをクラスメイトは目撃しているし、一緒に帰るところなどは他のクラスメイトも目撃し放題である。


 別に二人がどうしようと二人の勝手だと私は思うのだが、私以外はそうでもないらしい。


 それこそ、迷惑だと思うくらい、いろいろな人に忠告された。


「別府さんと、としやがつき合っているみたいだけど、あんたはそれで平気なの。としやを

とられて悔しくないの。」


「まさか、としやがぽっとでの転校生と付き合いだすとは思わなかったわ。あやなももっと引きとめるとかの努力をしなさいよ。幼馴染の威厳がないでしょう。」


 同じ小学校出身者は毎度おなじみ、イケメンバカ押しである。


「私は絶対に別府さんがとしや君を誘惑していると思うわ。でなくちゃ、あの二人がつき合うはずがないもの。としや君はあやっちのものでしょう。もっとガツンと言ってやったらいいわ。」


「そうそう。それに、私、別府さんって、入学してから見てきたけど、結構おかしなところがあるから、きっと向田君はだまされているのよ。」


 違う小学校出身者も見事なイケメンバカ押しである。どれだけ、私とイケメンバカをくっつけたいのだろうか。


 私とイケメンバカがつき合っている前提で、別府えにしが私からイケメンバカを奪ったということになっている。否定しようと試みたが、今までのイケメンバカとの付き合いを話に出されては、どうにも否定が通じない状況に陥っていた。


「別に私とイケメンバカ……。としやと私は付き合っているわけじゃないから、二人がどうしようと気にしないから。」


「そんなこと言って、強がっているだけでしょう。確かに別府さんはかわいくて、優しくて女子力が高くて、男子にもてる要素はたくさんあるけど、あやなにもあやなのいいところがあるから。そこをアピールすればいいのよ。」



 最終的に私は否定をあきらめた。別にイケメンバカと付き合っているつもりは毛頭ないが、こればかりは仕方がない。





 試験当日は、初夏にふさわしい快晴だった。教室は窓からの爽やかな風が入ってきて、テスト日和というよりも、教室の日の当たるところで昼寝をしたいような、そんないい天気だった。


 万全とはいえない状況でのテストだったが、普段からの勉強のせいか、満点とまではいかないが、そこそこの点数をとれる自信があるくらいには問題を解くことができた。


 つい、別府えにしが気になって、確認すると、前回とは違い、彼女は問題を真剣に解いている様子だった。時計を見ると、残り15分となっている。今回は真面目にテストを受ける気になったらしい。


 他人に、ましてやあの私ですら手を焼いたイケメンバカの勉強をずっと見ていたのだ。真剣にやったところで、今回も自分のテスト勉強などほとんどできなかっただろう。


 それに前回のテストの結果も鑑みれば、そんなにできることはないだろうと、私は彼女のことを甘く見ていた。


 それが大きな間違いだと気付いたのは結果が発表された時だった。



 ついでにとイケメンバカにも目を向けると、彼も必死に問題と向き合っていた。まあ、こちらも元がバカなので、勉強したところで、結果は目に見えている。



 私は気楽に考えながら、テストを終えたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る