「いや、いくら何でも、こいつのバカさ加減は半端ないから。」


 私とイケメンバカは放課後の教室で、二人きりで話をしていた。他のクラスメイトはすでにテスト勉強のために家に帰っている。別府えにしも例外ではないと思っていたので、いきなり声をかけられて驚いた。今まで何をしていたのかは不明だが、今はそんなことはどうでもいい。


 彼女の申し出には正直、戸惑いを隠せなかった。何を言い出しているのか、わかっているのだろうか。こいつはバカの中でも飛び切りのバカ。大抵の人間は教えようとして、三秒であきらめていくというバカの中のバカだ。


「そうは言っても、話を聞く限り、武田さんは向田君に小学校のころから勉強を教えていたのでしょう。」


「そうだけど………。」


「それなら問題ないわ。向田君。いつまでも武田さんに頼るのは良くないわ。いつかはあなたも武田さんから離れることになるのだから、今からでも、他の人に頼ることも覚えた方がいいわ。」


 意味深な言葉を残して、そのまま彼女はその場を去っていった。残された私とイケメンバカは彼女の突然の登場をどう受け止めていいかわからず、混乱していた。


「別府さんに話しかけられた……。」


 ただし、彼が思っていたのは、彼女から声をかけられたというどうでもいいことだった。



「あっそう。じゃあ、これからは別府さんに勉強を教えてもらえばいいんじゃない。彼女なら、優しく丁寧に教えてくれるかもね。その代わり、彼女に教えてもらうっていうなら、金輪際、私に勉強を教えてなんていわないで。迷惑だから。」



 彼が別府えにしに教えてもらうことで、勉強係兼世話係りから外れることができるならば、これよりうれしいことはない。そう思うのに、こんなぽっと出の転校生があっさりと私の苦悩を取り外してくれそうなのは、なんだか釈然としない気分だった。



 それから、テスト週間中、私は自分の勉強だけに時間を割くことができた。最初は、いつもの癖から、イケメンバカが近くにいないことに違和感を感じていたが、それも2,3日たつとすぐにその状況に慣れた。そのため、中学校初のテストに向けて、万全の準備ができたのだった。



 部活がなくなるということで、いつもより、1時間近く家に早く帰ることができ、私は帰りのHRが終わると、すぐに帰りの支度をして自宅に帰ったのだが、別府えにしとイケメンバカは、二人でどこで勉強するのかを話し合っているようだった。楽しそうに話すイケメンバカを見ると、また腹が立ったが、その理由を考えるのもあほくさかったので、すぐに家に帰ることにした。



「あやな、としやくんと喧嘩でもして別れたの。」


 そんなことを同じ小学校出身のクラスメイトが話しかけてきたのは、テストを週明けに控えた金曜日の昼休みのことだった。


「喧嘩はしてないし、そもそも付き合ってもいないからね、私たち。別れるとかの問題でもないから。」


「でも、みんな、としやくんが別府さんに乗り返ったって、うわさになっているよ。あやなが振られたみたいな感じになってるけど。真実はどうなの。」


 私がいくら付き合っていないといっても、話を聞いてくれないことはすでに慣れているので、今回もうわさを正すことはあきらめた。その後も、ちらほら、私とイケメンバカ、別府さんの関係を問いただされたが、面倒なので、黙秘することにした。



週末も、イケメンバカから何も連絡はなかった。ここまで何も音沙汰がないと、逆に気味が悪くなってくる。とはいえ、自分から話しかけるなといった手前、連絡するのもバカらしいので、やはり放っておくことにした。誰にも邪魔されることなく、土日もテスト勉強に集中することができた。 

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