転校生をバカにすることなかれ
折原さゆみ
きっかけ~小学校編~
1
「えにし、すまないがまた引っ越しだ。」
もうこれで何度目の転校だろうか。だがそれにももう慣れた。父の仕事の都合で転校してばかりの私だが、転校するのはやはり寂しい。短かったとはいえ、ともに学んだクラスメイトや「恋人」と別れるのはつらい。とはいえ、今回も私の目的はすでに果たされたのだから、別れがつらいとはいえ、特に未練は残っていない。むしろ、早く次の学校に行きたいという思いの方が強かった。
「別府えにしです。ここでみなさんと出会えたのはなにかの縁です。よろしくお願いします。」
もう何度も繰り返した自己紹介を終え、私は新しいクラス全体を見渡した。このクラスの人数は30人ほど。この中にもきっと私の「大好きな」人種がいるはずだ。そして仲良くなれるはずだ。
休み時間になると、クラスメイトがこぞって私の席の周りに集まってきた。私はさっそくクラスの実態を把握にかかる。この学校は田舎にあり、転校生は珍しいらしい。これは好都合だ。
「えにしちゃんって呼んでもいいかな。変わった名前だよね。」
「前の学校はどんな感じだった。うちとどう違う。」
「いいなあ。いろんなところに行けて。うらやましい。」
一度にたくさんの人から話しかけられて、転校に慣れていなかった頃の私はそれだけでもう学校に行くことに恐怖を覚えた。知らない土地、知らない人間、知らないことだらけで恐怖を覚えることは仕方ないことだろう。人見知りだった昔の私なら、なおのこと学校には行きたくなかった。
しかし、今はもうそんなことはない。私は転校した学校での楽しみを見つけた。それはそれは楽しい遊びを。
「未来ちゃんと太一君は幼馴染なんだね。いいなあ、幼馴染って。私にはいないからうらやましいな。」
私は転校した新しい学校で、まず初めに「幼馴染」を探す。できれば男女の幼馴染がよい。そして、彼らが「仲良し」なことが重要だ。仲が良く、クラス全体がその幼馴染の男女が付き合うことを容認している、もしくはすでにクラス公認の仲が理想だ。そのような人間は大抵、クラス内には最低一組ぐらいは存在する。その把握をするために転校して一か月くらいは、おとなしい人畜無害そうな性格に見えるようにふるまうことにしている。
「幼馴染なんていいものじゃないよ。ずっと一緒にいるっていうだけでセット扱いされるし、親ももう太一にしておけばとか言ってくるし。つまんない。」
文句を言う割に声の調子は軽い。怒っている様子は見られないし、どちらかというと、照れくさい感じで、私に言わせればただののろけにしか聞こえない。
「親にまで認められているんだね。いいなあ、太一君と将来を約束されているなんてすごいことだよ。私もここに来てから1か月くらいだけど、太一君って、かっこよくて、優しくて頼りになって理想の人だよ。私のタイプかも。でも、太一君は未来ちゃんのものだよね。残念。」
ここで私は盛大に太一君をほめる。あたかも惚れてしまったかのように。そして未来ちゃんのせいで私は太一君に告白できないことをほのめかす。
「太一はそんなんじゃないよ。かっこよくなんてないし、優しくもないし、頼りになんてならないよ。それに私のものじゃないし……。」
「えにし、それぐらいにしたら。未来と太一の仲に入れる奴なんていないんだから。いくらえにしの好みだって無理だよ。あきらめな。」
「そうそう。あきらめなって。太一に告白する女子多いけど、みんな玉砕してるから、やめときな。」
「そうだね。みんながそういうならやめておくよ。」
クラスの女子たちに、太一はやめときなといわれるので、私はあたかもあきらめたような残念な風を装って答えておいた。まあ、実際あきらめるつもりは毛頭ないが。だって私の楽しみなんだもの。
私は「幼馴染」という言葉が大嫌いだ。漫画やアニメ、小説、いたるところで幼馴染をテーマに扱った恋愛ものと出くわす。そのたびに引っ越しが多い転勤族には無縁のもので、何が幼馴染だ、そんなものは私には存在しないんだよ、と思っていた。
そして、大抵の物語は幼馴染同士が結局つき合うことになるのだ。転校生などのよそ者はただの、幼馴染たちのつき合うための一歩を与えるに過ぎない、かませの存在でしか扱われることはない。
昔はそれが嫌で嫌でたまらなかった。しかし、ある出来事をきっかけに幼馴染という存在が私にとって、生きがいとも思える存在になった。
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