第2話 天才とスライムと孤独と…

何の変哲も無い日々が始まる。

生まれた時から将来は冒険者としての人生を定められ、特にそのような人生が嫌だったわけでもなければ、特にこうなりたいとの願望があったわけでも無い。

物心ついた頃には親の存在はなく、どんな親だったかも覚えていないが、孤児院での生活が僕のあたりまえだったため特に気になりもしなかった。

何かあてがあったわけでもなく自立し、孤児院からの餞別のみをあてに、将来よりも今日をどう食いつなぐかを考える日々。

いってみれば自由気ままな冒険者の鏡と言っていいだろう。

さてそんな僕も冒険者になると言うことは大人への1歩でありこんな僕も立派な大人の一員だ。

今日もそんな大人な僕の毎日が始まる。

「響。いい加減諦めたらどうなんだ? スライム相手に怪我するやつなんて初めて聞いたぞ。」

「あいつが討伐モンスター数0の冒険者か。」

…こんな僕でも立派な大人なのだ。

生まれた時から家系の事情のため人よりも貧弱な体系で育ったものの、たった1メートル程のスライムなんて赤ん坊でも逃げ切れるほどのスピードしかなくなんの脅威にもならない。

さらに触ってもくっつくことも無い本当に最弱モンスターだ。

さらにさらにスライムを退治する手順は決まっていて

まずショートソードで2つに分ける

次に塩水など塩分を含んだものをかける

最後に小さくなったスライムを灰になるまで燃やす。

なぜこの手順で倒せるのかは知らないが、手順を覚えてしまえば手間はかかるものの子供でも退治できる最弱モンスターだ。

そんなモンスター相手に手こずっているのには訳がある。

「今日こそモンスターを倒してみせる!」

そう意気込んで真新しいショートソードを片手にスキップしながら草原に向かった僕だったが、スライムを目の前にこんなどうでも良い疑問が浮かんできた。

「スライムって脳ってどこにあるんだろうな?」

そんな疑問を抱いて訳3時間。

気づく頃にはもう夕日が見えていた。

ついでに右手が溶かされていた。

…いつもそうだ

考えるとやめられないんだ

やめようと思ってるのにやめられないんだ。

そもそも考えていた間の記憶がないんだ。

「もう嫌だ…」

…天才

天才天才天才天才天才天才天才天…才…

普通の人から見れば褒め言葉のように聞こえるが、僕にとっては皮肉でしかない。

小さい頃から天才と人に言われ続けたが、天才がスライムに溶かされるわけがないだろう。

何度もこの病気を直そうと思った。

考えることをやめようと何度も考えた。

でも、考えないといられないんだ。


この病気のために幾夜も泣いた。

この病気のために何度も死のうと思った。

でもその勇気も出ないんだ。


僕は弱々しくて病気にかかったただのヘタレだ。


僕は自分が嫌だ。


そう考えて泣き疼く日々。

しかしそんな僕の人生の中で大きな2つの転機のうち1つは間違いなくあの夜のことだろう。






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