修学旅行の記憶-2

 わたしの、中学校の修学旅行の話をしましょう。

 2泊3日という期間で、奈良と京都をまわる旅でした。

 奈良探索を無事に終え、京都市内のホテルでも悪夢は見なかったので、気が緩んでいました。

 最終日の、クラス別行動の際に、それは起こりました。


 伏見稲荷大社。

 言わずと知れた、京都の観光名所です。

 散り散りになっての探索が許可されたので、わたしはひとりで境内を歩いていました。

 今思えば、わたしのような人間は、この世とあの世の境目が曖昧な場所をひとりで歩いてはいけなかったのでしょう。


 唐突に、ふっと、音が消えたんです。

 あんなに煩わしかった喧騒が、ぱたりと止みました。

 綺麗な声で名前を呼ばれた気がして顔を上げると、人っ子ひとりいないんです。

 あれだけの数の人が突然消失してしまったかのように、誰もいないんです。


 さすがにおかしいと気がついて、わたしは足を止めました。

 しばらくそのまま待っていると、消えたときと同じように、出し抜けに音と人が戻ってきました。

 あのまま進んでいたら、この世でないところに辿りついてしまっていたのでしょうか。

 クラスメイトに訊ねても、そんな現象は覚えがないと笑われるばかりで、結局あれがなんだったのか、わたしがどなたに呼ばれたのか、わかってはいません。



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