第16話 ヒステリック討伐開始 (創作)

 元会計課のユリナは、二人のメイドが俺達の剣と弓を持ち逃げすることになった経緯を語り始めた。


「私達は、能力を上げるために、近くの森で魔獣を倒していたのです。たまに魔石も出て、お金にもなりますし。これは、ヤマモト係長の命令に従っているフリをする、という意味もありましたが、それ以上に、妖魔と戦うだけの力をつけたいと思っていたからです。私達には普通の武器しかありませんでしたが、それでもこの世界の人から見れば、驚異的な戦闘力だったようで……そんな私達が、皆さんが持っているような強力な武器を手にすれば、ヤマモトさんですら倒せるのではないか、と、そこの二人は考えてしまったようなのです。私が預けた魔石の鑑定をしてもらっているときに、たまたま皆さんのすばらしい杖が鑑定されるのを見ていたようで……」


「「……ごめんなさい……」」


 二人は、また揃って頭を下げた。


「なるほど、それで俺達の後を付けて、あの酒場へと行ったっていうわけか……あそこで『お預かりします!』って言ったのは、思いつき?」


 俺が、なるべく優しい口調で尋ねると、二人とも涙目で頷いた。


「……だったら、俺達も悪いな……余りにも迂闊だった……いや、そもそも、なんにも問題ないのでは? だって、言葉の通り預けただけで、こうして返してもらったんだから」


 俺の言葉に、少女二人は目を見開いた。


「……そうね、その通りよ。ヒロが、きちんと返してもらう日時とか指定しなかったのが悪かったの。だから、困って持って帰っちゃった……そうよね?」


 かなり強引なミキの誘導で、さすがにメイド二人は戸惑っていた。

 他のみんなも、誰も彼女たちを罪に問おうとはしていない。


 すると、ここでイメンディ男爵が、


「……なんという心の広いお方達なのでしょう。寛大なお言葉、感謝します」


 そう言って頭を下げた。

 二人のメイド達も、


「「ありがとうございます!」」


 と、何度も頭を下げていた。


 そして、ここから本格的に、ヒステリック・ヤマモトの攻略について、議論が始まった。

 俺は、ユリナさん達にも戦いに参加してもらえないかお願いしたのだが、辞退された。


 理由は、単純に戦闘力が不足していると言うこと。

 彼女たち、今現在でも、最も高い数値で250程度なのだという。


「十分ですよ、フトシ課長代理なんか戦闘力、たったの3なんですよ!」


 と、ユウが悪意なくバラしてしまったのだが、


「でも、その分なにか飛び抜けた長所があるのでしょう? 私達は、転移者の中ではごく平凡な能力のです。だからこそ、幸いにも妖魔にされなかったのですが……それに、私達には妖魔となった同僚を、とても攻撃なんかできないです……」


 と言われてしまった。


 たしかに、それを言われると辛い。

 肉体を滅ぼして、魂を解放してあげることこそ、元同僚の為にもなる……それは、彼女たちも頭では分かっているらしい。


 でも、できない。


 あるいは、彼女たちの方が普通で、俺達の方がアイザックとの訓練で、吹っ切ることができただけなのかもしれない。


 その後、別行動で剣と弓の所有者を捜していたという、会計課のヤエ、モエの二人とも再開。

 歳が近く、仲が良かったミキと感動の涙を流したものの、やはり、戦いに参加することはできない、ということだった。


 また、彼女たちが打ち合わせに加わったことで、より具体的にヒステリック対策を検討することができ、


「ひょっとしたら、弱点となるかもしれない」


 という情報を入手できた。

 ただし、迂闊に使うと火に油を注ぎかねない、諸刃の剣なのだが……。


 旅の仲間を増やすことはできなかったものの、剣と弓は取り戻した。

 俺達は彼女たちに、必ずヒステリックを倒してみせると誓い、男爵の館を後にしたのだった。


 宿屋に帰ってアイザックに、取り戻した武器を見せると、彼の容態は瞬時に回復。

 そのとたん、


「だいたい、そなたたちは隙が多すぎる!」


 などと口うるさく注意されたのだが、まあ、元気になって良かった。


 その日は安心してぐっすり眠り、翌早朝、それまでに仕入れた情報を元に、早速ヒステリックが潜伏するという、古い砦に向かった。


 目的地までは、約二時間。

 周囲は草原で、所々に、大小様々な木が生えている。

 天気は快晴で、気温も暑すぎず、寒すぎず、ちょうどいい感じだ。


「昼寝でもしたいね」


 呑気なミキの言葉に、


「いや、まだ朝だから、朝寝になるだろう?」

 

 と、俺も冗談で返した。


 そんなふうに緊張感のないまま歩いていると、街道沿いに、高さ三メートル、幅十メートルほどの大きな岩が見えてきた。


 特に意識することなくそのまま歩いていると、突然その岩陰から、おかっぱ頭で眼鏡をかけて、舌を高速で上下運動させる、妖魔化した元従業員が現れた。


「あれは……イヤミー岡田!」


 ミキは、大声でその元同僚のあだ名を叫んだのだった。


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