走れ、下僕!

勝哉 道花

序走『開幕』

 下僕は、激走した。


 必ずや、かの暴虐無人である魔王の下へと。


 下僕に難しいことはわからぬ。


 学業に励む身ながらも、その成績は下の下。

 彼の頭がよくなる兆しは一向に見えぬ。きっと、彼の頭は生まれつきその程度のものなのだろう。


 故に、


 下僕は大事な友の名を間違える。


 自身にかせられた時間すらも守ることが出来ずに破る。


 かの英雄のようにはなれぬ。


 それは、頭の悪い下僕にもわかっていた。



 しかし走らねばならなかった。



 この胸の内をこがす衝動を、かの魔王の下へ届ける為。


 今、窮地にいる暴虐無人野郎を救う為。


 彼は走らねばならぬ。



 この物語は。



 何故なにゆえ下僕ごときが、魔王の為に走ることになったのか。



 ただ、それだけを語る物語である。

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