第11話一年越しのあなたへ ありがとう、そしておめでとう
「んんっ」
俺は目を覚ます。
あれ?何で俺は自分のは部屋に?
…まぁ、いいか。
それより。
魔力を流せば右目が見えるようになるって言われたっけな?
そして俺は右目に魔力を込めてみる。
そうすると…
「おっ、見えるぞ!」
そして見えるようになった右目と左目、両方を使い、窓を開けて外を覗く。
空は雲ひとつない晴天で、どこか暖かそうな風をはこんでくる。
俺は何かを、何か大切なものを忘れている気がする。
そう思うと俺の頬には自然と涙が溢れていた。
そしてその時、部屋のドアが開いた。
それと同時に誰かが部屋へ入ってくる。
そして俺を見ると、俺が起きているのを驚いたけのように目を丸くする。
「シトレア…様?」
俺はそのメイドを見る。
が、誰か分からない。
初めて見るメイドさんだ。
容姿を見る限り俺と同い年くらいだろうか。
「あなたは誰?」
俺はそのメイドさんに問いかけたが、聞こえていなかったのかそのメイドさんは、俺に構わずすぐに廊下をかけていった。
「ヨメナ様、オシエさん、シトレア様が起きました!」
大きな声でそう言って廊下を走っていく。
オ…シエ?
そうだ!
全部思い出した。
俺は、ドラゴンと遭遇して…それでぼうっとしてたらオシエが俺のことを守るために…
「そうだ、オシエは!」
俺はそう言ってベッドから降りて部屋から出ようとする。
が、足腰に力が入らず、バタッとその場で倒れてしまう。
「何で、何でこの足は動かないんだ!」
自分の足ですらろくに動かせやしない。
ただ俺は、前世で培ったものを簡単に活かすことが出来る。
と、そう思っていた。
けれども、それは現実を見て知ることとなった。
俺はあの時、ドラゴンが来たとき、何もすることができなかった。
前世では剣技にたけていたために、現世で全ての魔法属性を使えても、ろくに使う事ができない。
ましてや、今のこの身体で剣を使うこともままならない。
身体強化の魔法をかければできると思うが、すぐに身体が破壊され、ろくに使うことは出来ないだろう。
だから今の俺にはほとんどできることがないだろう。
そう思うと、ただ"くやしい"という感情しか心から込み上げてこない。
「俺は、俺 …は!今の俺には、ただ見てることだかしかできない!」
俺の頬は、またもたくさんの涙で濡れていた。
その時。
「シア様?」
俺の後ろで声が聞こえる。
そして俺は声の方を振り返る。
「オシエ?」
「シア様!」
オシエは俺の名前を叫びながら瞳に涙を浮かべ、俺に抱きついてくる。
「もゔおぎないがど、ひっくっ、じんばいじまじだ」
俺は涙を拭くとオシエが抱きついてくるのに応じる。
やっぱりオシエは、暖かくていい匂いがする。
そしてどこか安心する、そんな気がする。
「心配してくれてありがとう、オシエ。でももう大丈夫」
オシエを泣き止ませると、オシエは俺に感謝の気持ちを伝えてきた。
「シア様。あの時、私の命を救っていただきありがとうございます。このご恩は絶対忘れません」
「うんん。お、私は何にもしてないよ、私はただ何もできずにぼうっとその場に立ってただけ。」
「シア様、それはちが」
「違くない!俺はあそこで何にも出来なかった!ただあの場に突っ立ってただけ!俺は何にも出来なかった!」
その時だった。
「シア、それはちがうよ」
俺の耳に一番聞き慣れている声だった。
俺は恐る恐る顔を上げてヨメナを見る。
そこには前と違い、元気そうなヨメナの姿はなく、全体的にやつれていてどこか辛そうだ。
「…ヨメナ」
俺は誰にも聞こえないくらいの声でその名を呼ぶ。
「シアは役に立ってないなんてことはないよ。もし役に立ってないって言う人がいても、そんなことシアの前で言わせない。
私はね、シアのおかげで頑張れたんだよ?シアがいる、シアが待ってる。だからこの街を守ってシアの元へ帰ろうって、たくさん甘えさせてあげようって。シアがいたから頑張れた。だから役に立っててないなんて言わないで」
「本当に?」
俺はその言葉に迂闊にも涙してしまった。
「うん、それにね、シアは覚えてないかもだし、知らないかも知れないけど、シアは街が白い光に包まれたの知ってる?」
俺もそれは覚えていたので、「うん」と答える。
「それはね?シアから出てたんだよ?その時、シアの背中から白い翼が生えてたからびっくりしたんだよ?でもね綺麗だった。
そしてその光は街全体を照らしていった。
東門の方はドラゴンを倒して西門もドラゴンが逃げていったんだけどドラゴンのブレスで街がやられちゃってね。だけどその光を浴びたらね、焼かれたはずの場所がみるみる戻っていったの。
しかも町中の怪我人の傷がみるみる治っていったの。
私はそれを奇跡だ!って思ってるよ。
さすがは私とアキの娘だなって、自分のことように自慢できて嬉しいよ。
みんなもシアにお礼が言いたいって、言ってる。
だってシアのおかげで街が守れたんだもの!」
ヨメナは自分で喋っているうちに、我慢していた涙がこぼれ出てきてしまっている。
「本当?俺は守れたかなぁ?」
目が熱くなってくる。
「うん、しっかり守れたよ。あと女の子なんだから俺って言わない、私って言いなさい。」
「ごめんなさい、ママ。そんなに強く抱かないで、暑苦しい」
「無茶言わないで。ちょうど一年眠ってたのよ。心配しない親がいるもんですか。少しは自重しなさい。シアのせいでろくに食べなかったし、寝なかったし、コンディション最悪よ!だから文句言わずに、子供なんだから親に心配かけた分、抱きつかれてればいいの!」
俺はぐうの音もでなかった。
てか、俺一年眠ってたのかよ!?
まぁ、そこは良くないがもういい。
そして俺は、ヨメナの胸に顔を埋めながら抱きしめられている。
とても柔らかくて気持ちいいのか苦しいのか微妙なところだ。
そしてヨメナに抱きつかれてからしばらくがたった。
みんなそれぞれにいろんな我慢していた思いがあると思うが、今ではすっきりしたのか、みんな清々しい顔をしている。
そんな時だった。
「ヨメナ様。例の件と、食事の準備が整いました」
さっきの新たなこの家のメイドであろう女の人が入ってくる。
「そう、じゃあオシエ、シア行くわよ!」
「はい、ヨメナ様!」
そう言ってオシエは立ち上がるとさきに部屋から出て行ってた。
「ほら、シアも立って行くわよ」
だが俺は足に力が入らないため、自力で立ち上がる事は出来ない。
たぶん、さっきの話でヨメナが言っていたが、一年も寝ていたために筋肉が衰えてしまったためだろう。
「ママ、たてなーい!」
俺はヨメナに捕まって抱っこしてもらう。
「もう、甘えん坊なんだから。まあ、一年寝てたからしょうがないかな?じゃあいくわよー!」
「おー!」
俺とヨメナは、部屋から出て食事をするテーブルに向かった。
テーブルに向かうと、すでに食事が並べられていた。
その食事は、いつもより中に豪華だ。
「?ママ、なんできょーのごはんはこんなにごーかなの?」
「それはねー?みんないくよ、せーの!」
「「「シア(様)誕生日おめでとうございます!」」」
そう言ってオシエは、俺の前に二つのケーキを置き、片方にろうそくを三本、片方には四本つける。
「なんでケーキ二個あるの?」
「だって去年シアの誕生日、騒動があって祝えなかったでしょう?しかも今日はそれがらちょうど一年でシアの誕生日だし…だから一緒に二回分祝おうとしたのよ?」
そう嬉しそうにヨメナは俺に言ってくる。
そんな些細な彼女の善意にも目が熱くなってしまう。
そしてヨメナがあたりの電気を消して誕生日の歌を歌う。
「「「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー……」」」
俺はみんなが歌っている中いろいろなことを考える。
死んだこと。
女神と会ったこと。
転生して自分の娘に生まれ変わったこと。
ドラゴンの襲撃にあったこと。
そんな今までのことがあったからこそ今の自分がいる。
だから自分は、それを背負って精一杯与えられた生を生きていこう、って。
そして歌は歌い終わる。
「おめでとう、シア」
「おめでとうございます、シア様!」
おめでとうございます、シトレア様!」
彼女たちは各々の俺におめでとうと言ってくれる。
俺はそれを聞いてから、ろうそくの火を消す。
そして明かりがつくと俺はみんなに言った。
「ありがとう。私を待っていてくれて」
って。
自分の今できる精一杯の笑顔で。
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