第24話
真っ白になった頭を無理やり動かし、たった今聞いた言葉を確認する。聞き違いじゃなければ木葉が私のことを好きだと言っていた……ような気がする。いや、もしかしたら自分にとって都合のいい解釈をしているだけかもしれない。
そうだったらいいなと思った事は何度もある。もしかしたら木葉も私のことをと妄想したことも、たまにある。だけどいざ実際に言われると戸惑うし、すぐには受け止めきれない。
でも、もしもこれが勘違いじゃなかったら……
どうしよう、すごく嬉しい。大事な話をしているっていうのに、手放しで喜べる状況じゃないのに、思わず頬が緩みそうになる。
そんな私の心中を知ってか知らずか、木葉はさらに続けた。
「一緒にいると、もっと近づきたいって思ってしまうんだ。そんなことしたらますます生気を失うって分かってるのに、それでも自分を押さえられなくなる。いつだって志保に触れていたくなる。今だって…また、抱きしめたくなる」
一言発する度に心臓が高鳴る。好きな相手からこんなこと言われたのだから当然だ。だけどそれは、今の私にとって嬉しい事ばかりじゃない。
「だから、もう私とは一緒にいられないって思ったの?」
好きだという思いが募れば募るほど、より相手との繋がりを求めてしまう。もっと強く、もっと深く、もっと確かな繫がりを。繫がりが強くなればなるほど、より私の生気は失われるというのに。
「……ああ、そうだよ。こんな気持ち、志保にとっては迷惑だろうけど」
木葉はそう言って言葉を締めた。
そんなこと無い。そう叫びそうになって、だけどグッと堪える。だってこの勢いのまま答えてしまったら、きっと後先なんて考えてられなくなるから。生気を失う危険なんて無視して木葉の胸に飛び込んでしまうから。
だから、今にも爆発しそうな感情を必死で抑え、いつも言っているようなことを口にする。からかいや意地悪に溢れた、普段の私が言いそうなことを。
「つまりあんたはいつも、夏祭りの時もその後蛍を見に行った時も、私のことを襲いたい襲いたいって思ってたわけか」
「違っ…!」
木葉の顔が一気に崩れた。普段はこういう冗談を言っても上手くかわすけど。今は真面目な話をしていたためか不意打ちだったみたいだ。
「そういえば、前に私を抱えて飛んだ時もいろいろ触ってきたわよね。まさかあれも…」
自分の体を抱きしめるように手で覆いながら身を捩る。いくら何でもそこまで欲望に忠実な獣となるとさすがに身構えてしまう。
「あれはわざとじゃないって。ほんとうにたまたま当たっただけで――」
「黙れ、この欲に塗れたセクハラ妖怪!」
「……酷い」
木葉が涙目になる。ここまで狼狽している姿は何だか新鮮だ。もしかしたら初めて見るかもしれない。
これはこれで楽しいけど、このままじゃ私の生気が無くなる前に木葉がもっとたくさんの物を失ってしまいそうだ。
そもそも今まで真剣な話をしていたはずなのに、何だか色々と台無しにしてしまった気がする。
だけどどうか許してほしい。こんなふうにふざけた事でも言わないと、衝撃で心が耐えきれそうになかったのだから。
「でもね木葉」
「……なに?」
気を取り直して再び声をかけると、いじけたような返事が返ってきた。素骨子やりすぎただろうか?
だけどバカなことを言って騒いだ分、さっきまでより幾分落ち着いてこれからのセリフを言うことができそうだ。
「好きだって言ってくれたのは、すごく嬉しかったよ」
「―――っ!」
言っててカッと顔が熱くなる。やっぱり落ち着いて言うことなんて出来そうにない。
ほんの少しの間をおいて、私は伝える。ずっと言えなかったこの思いを、ずっと言いたかったこの思いを。
「私も好きだよ。木葉」
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