第56話 エピローグ2(完結)

 掃除をすませ、三人は墓地を後にする。そこでふと、啓太が小さい声で藍に尋ねた。


「なあ藤崎」

「なに?」

「前から思ってたけど、お前こうまで色々やっておいて肝心の告白はしないよな」

「なっ……」


 啓太にしてみれば、藍がいつ優斗に告白するのかと内心ビクビクしていた。だがいつまでたっても藍が大きな動きを見せることは無い。だからそれを疑問に思い聞いてみたのだが……


「わぁーっ!」


 藍は大慌てで啓太の口を塞ぎ、少し離れた所を歩いていた優斗へと目をやる。幸いなことに、どうやら今の会話は優斗には聞こえていないようだった。

 少し安心し、それから小声で啓太に聞く。


「三島、知ってたの?いったいいつから?」


 藍は心底驚いたようだったが、ある意味それを聞いていた啓太の方が驚いた。


「先輩が生きてた時からだよ!って言うか、気づかれないとでも思ってたのかよ!」


 啓太にしてみれば、藍が優斗を好きなのはこの上なく簡単に分かる。そんなのは、藍に意地悪をしていた頃から知っている。


「お願い。ユウくんには言わないで!」


 顔を真っ赤にしたまま恥ずかしそうに言う藍。だがわざわざ頼まなくても、啓太には最初からこれを優斗に知らせる気はなかった。


「言わねえよ」


 誰が自らの恋路の邪魔になるような事などするものか。それに藍の気持ちも分からなくはない。


「まあ、いくら想っていても、そう簡単には言えねえよな」


 好きな相手に告白できないのは啓太も同じだ。ずっと前から好きなのに言い出せなくてもう何年にもなる。


「三島も誰かそんな人いるの?」

「さあな」


 当の相手がその想いに全く気付いていないのは幸か不幸か。

 そこへ、いつまでも話をしている二人を見て優斗がやってきた。


「何話してるんだ?」


 彼からすると少し気になった程度のものだったが、話の内容が内容だけに、二人を慌てさせるのには十分だった。


「「何でもない!」」

「そ、そうか……」


 口をそろえて言うと、優斗は面を食らっていた。

 それからまた並んで歩き始めると、藍はそっと優斗を眺めた。

 小さい頃からずっと好きだった人。生きていた頃はその想いは伝えられなかった。消えてしまうと思った時も、今は妹でいるべきだと思い結局最後まで言えなかった。

 だけど未だ優斗が近くにいてくれるのなら、このまま終わりにはしたくない。また一緒にいられるのなら、これからもこの想いは持ち続けたい。


「どうかしたのか?」


 じっと見つめ続けていたものだから、優斗がそれに気づいた。


「改めて不思議だなって思って。ユウくんとまた会えたのも、こうして一緒に歩いているのも」

「そうだな。俺もだ」


 一体いつまでこうしていられるのかは分からない。だけど出来ることなら、このままでいてほしい。妹でなく一人の女の子としての『好き』をちゃんと伝えられるその日まで。


(いつかきっと言うから。だからそれまで消えないでね、ユウくん)

 今はまだ口に出せない代わりに心の中で呟く。


 


 藤崎藍。好きな人、十歳の頃も十五歳の今も、ずっと変わらずユウくん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る