駅で誰かを待っていると。

駅で誰かを待っていると。


別れゆく恋人たちを見かけた。


旅立つ理由はいくつもある。


仕事だろうか。夢だろうか。都合だろうか。


私は思う、離れても続く恋であれと。


私は思う、それは長く険しい旅であると。


その恋人たちは、窓越しに手を重ねていた。


駅で誰かを待っていると。


箒をはいている少年を見かけた。


すると、お父さんのような人が来て。


お駄賃を渡す。少年は大きく喜ぶ。しかも頭までくしゃくしゃに撫でられて、幸せそうだ。


お金と幸せはいつも議論されがちだ。


だけど、この議論は正直苦しい。現実を考えることはとても苦しいのだ。


私は思う、幸せならいいじゃないかと。


私は思う、幸せを考えようとするたび、それなりに生活が絡むと。


でもそれでも思うのだ、幸せが大事だって。嬉しそうな少年の顔を見ると。どんな苦しい世界も些細なことだとお願いだ笑ってくれ。


駅で誰かを待っていると。


本を落とした老人を見かけた。


慌てて声をかけて渡す。


老人は言った。迷っているのだと。


書を捨て町へゆけ、と書いてあったのだと。この本に。


だから捨てたんだと。でも、その本がないと指針がないから、迷ってしまうんだと。


僕らには学びが必要だ。しかし、僕らが考えるとき、一番考えなくちゃいけないのは僕らの脳みそだ。


私は思う、彼はとても誠実な人なんだと。


私は思う、誠実な人はこんなにも皺の数が多いのかと。


この本は大事にしてください。と私は本を渡した。その代わり、オススメのレストランを教えてみた。ガイドブックに載ってないお店だ。


駅で誰かを待っていると。


走ってくる車掌さんを見かけた。


今日も終電まで待っていたんですかと。


私は申し訳そうにそうなんですと答えた。待つのに慣れてしまうのは、少し寂しいことかもしれないね。


雪が降ってくる。彼女との出会いを思い出す。そしてお別れも。


この町では色んなことがあった。私の場合は、町を捨て、本を拾いたいくらいだった。本の中の世界は美しいままだったから。


でも。


私は思う、町は苦手で、人も苦手で、生きるということに完璧な肯定を抱くのはまだまだ時間がかかるだろうなと。


私は思う、それでも、好きになる瞬間が私を離さないのだと。


穏やかな気持ちで、帰路につけるだけで、今の私は構わないのだ。

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