抜け殻

蝉の抜け殻が落ちていると思っていたがどうやらこれは君の抜け殻らしい。丁寧に名前まで書かれている。


さて観察。


うーん、綺麗な形をしている。京都美人?


にしてもまるで彫刻のように凛々とした姿で立っている。中身は勿論抜け殻なので存在しないが、遠くから見たら本物と間違えてしまうかもしれない。それほどに完璧な造形をしてる。


蝶は蛹から蝶になる。

より美しい姿へと変化する。

ならこんなに美しい抜け殻を持つ君は恐ろしく美しいに違いない。


あれ?

そういえば中身は一体どこへ?

抜け殻があるということは近くにいるはずだが・・はて、何処にいる?


よっぽど美しいに違いない。会いたいな。京都美人を超える京都美人。でも八方美人は嫌だな、なんて。


おーい、何処だい?私に教えておくれよ


蝉の声しか聞こえない。


おーい、頼むよ、返事をしておくれ!


蝉の声しか聞こえない。


ていうかうるさいな。なぜこんなに蝉の声がする。何匹ぐらい、いるだろうか?

ミンミンと、しつこいったらありゃしない。


ミンミン。奴らは一体何者なのだ?少なくとも我ら人間じゃない・・ん?


私って誰だ?


あれ。思い出せない。私は一体何処のなんという奴なのだ?思い出せないぞ・・。


あっ、蝉、抜け殻、八方美人・・


そういうことか。

ああ残念。

そうだったのね。

あーあ、一週間以上生きたかったのになあ。さらば僕よ、また会いましょう、前世で。


抜け殻の中に入っても

生まれる前には戻れない

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