第96話 ワルモン教壊滅から三日……
――――――――――――――――――――――――――――――――
ワルモン教壊滅から三日……。未だにカズヤはアクアリウスの前に姿を現さないでいた……。もう、どこか別の街に行ってしまったのだろうか、とアクアリウスは胸を締めつけられる想いでいた……。
「アクエリ……まだ、こんなところにいるのか……」
アクアリウスに声をかけてきたのは元ワルモン教第三司祭、ノウレッジである。ノウレッジはアクエリが未だに浮浪者が住んでいるようなテントで生活していることを気にかけていた。
「帰ってくるかもしれないから……」
アクアリウスが帰りを待っているのは、もちろんカズヤである。一緒に暮らしていたコウ、カイそしてマリは、ノウレッジの家に預けていた。ちなみにノウレッジがすでに釈放されているのは、スルアムの街の運営に携わるためである。
レジストを始めとする反乱分子の構成員には、スルアムの行政を行える程の知恵者はいなかった。かと言って、十年以上ワルモン教に支配されていたスルアムの住人の中にもそんな知恵者はいない。そんな能力がある人間はワルモン教に入信されたか、殺されたかだ。
そこでノウレッジに白羽の矢がたったのである。ワルモン教会に在籍しており、さらには幹部でもあったノウレッジには自治組織を運営するノウハウがあった。そのため、レジストはノウレッジを釈放したのである。もちろん、レジストにとって旧知の仲であるノウレッジを何とか理由付けして助けてやりたいというのが最も大きな理由ではあったのだが……。
「……お墓は造ってあげた?」
「ああ……」
アクアリウスは、ノウレッジに確認する。デモンズとイービルの墓のことだ。デモンズとイービルは、別々の拘置所で舌を噛み切って自害した……。……悪党には悪党なりの矜持があったということだろう……。遺書には、全責任を自分が持つこと……、家族は許してほしいといった内容が書かれていた。アクアリウスはシスターとして、拘置所に呼ばれ、二人の遺体に対し、女神アクアの元に召されるよう祈った。そして、遺書に書いてあった家族を許してほしいという願いも必ず聞き入れると告げたのだ。悪党ではあったが、彼らも家族を愛する人間ではあったのである。
「ノウレッジさんは死んだらいけませんよ!」
アクアリウスの念押しに、ノウレッジは笑って答えた。……一人の女性がアクアリウスの元に走って来た。ギルドの目付きが悪かった受付嬢である。彼女もワルモン教からの解放で心が晴れたのか、鋭い目つきは変わらないが、どこか柔らかい表情になっていた。
「どうしたんですか? そんなに慌てて……」
「アクアリウスさんに寄付がありましたので、急いでお渡しにきたのです!」
「寄付?」
アクアリウスは受付嬢から渡された契約書を確認する。そこには、ワルモン教の弾圧から逃れて取り壊されないでいた街外れのアクシズ教会をアクシズ教シスターのアクアリウスに寄付するという内容が書かれていた。
「すごいですね。物価の低いスルアムとはいえ、あの大きさの教会を買うには五千万エリスはくだらないはずですよ!」
受付嬢は興奮した様子で話す。しかし、アクアリウスが知りたいのはそんなことではなかった。
「こ、これを寄付してくれたのは誰なんですか!?」
「え? えーと、匿名でしたので、名前は覚えていないんですが……、よく暴れ牛を討伐していた緑色の防具を着た人です……」
「今、その人はどこにいるんですか!?」
「さっきまではギルドにいましたが……、ってアクアリウスさん、どこに行くんですか!?」
アクアリウスは緑色の防具を着た人と聞いて、寄付した者がカズヤだと確信し、ギルドに向かって全速力で走りだす……。
「なんで帰って来ないんですか……!」
アクアリウスは独り言を吐きながら、ギルドに向かう……。ギルドに到着したアクアリウスが見たのは、今、まさに転移魔法で移動しようとするカズヤの姿であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます