十夢、杏夢 について。

4-1


二度あることは三度ある。なんて言う諺があるが、この場合は一災起これば二災起こると言うか一難去ってまた一難と言うべきか…これを災いと言うのか難題と言うのかは分からないが、少なからず僕は「またか。」と並大抵な感情と共に食堂にいた。なんだ、事件はいつも食堂で起こるのか?僕の食生活に安泰は無いのだろうか。

とは言えこの学園の学食である親子丼は実に美味である。これが三百円で食べられるだけでも、ここに編入してきた甲があると言うものだ。僕は半熟にとろける卵と絶妙に絡み合う出汁の優しい味に舌鼓を打ちながら、チラリと前を見た。

この広い学生食堂において、僕の目の前にわざわざ座る物好きなんて天來美心ぐらいのものだと思っていたのだけれど…どうもまだ僕の知り得ない不可解な事がこの世には存在しているらしい。

僕の目の前にはフリフリのレースやらリボンをあしらった西洋風のドレスを着た女の子が座っていた。僕はお洒落とは縁遠い上に、こういった類の服には詳しくないのだけれど、これは俗に言うゴスロリドレスだろうか?しかしその地毛とも言える程に美しく抜かれた真っ白いボブヘアーと良く似合っている事は確かだ。表情は読めないが、数十分は僕の食事風景を眺めている所を見ると、お腹が空いている訳では無いのだろう。ではなぜ食堂にいるのか…それは皆目見当もつかない。

制服では無くゴスロリドレスを着ているところと、その幼げな顔立ちから、初等部なのだろうとは思うけれど。なにぶん僕も話しかける訳では無いし、向こうも何も話しかけてこないのだ。不可解を通り越して不気味である。そして何が最も不気味かと言えば、ゴスロリドレスの白髪少女が2人。そう、2人なのだ。親子ならぬ姉妹のようにそっくりな2人の少女達。

一卵性双生児とはここまで似るのだろうかと感心さえ覚える程に、この2人はよく似ていた。しかしどうしても僕の中の違和感は消えない。これは僕がまだ冬用の制服を着用しているからなのか、左右の靴を履き間違えているかのような妙な感覚である。

この不可思議で不可解な感覚は食事風景を美少女2人にジッと見つめられているから、と言うだけでは無さそうだ。

どうにもこうにも気持ちが浮き上がる…僕はそそくさと親子丼をお腹の中にかきこみ、静かにご馳走様を言い、その場を去った。


いやいやいや、話しかける訳なんか無いだろう?関わってはいけないオーラしか無かったではないか。天來 美心たからみこころ竜西九りょうさいいちじく遊坐遊楽ゆざゆうら、こんちゃん、と僕のここ数日は平穏とはとても言い難いぐらいの事件の連続だったのだ。先発投手のエースでも、こんなに連続でマウンドには立たないぞ。まぁ野球の事なんて微塵も知らないのだけれど。

とにかく僕は、もう何事にも巻き込まれたく無かった。僕の平穏な日々をぶち壊すのは天來美心だけで十分だ。


「てんちゃんせんぱーーーい!」


そう、こんな風に。


「天來、廊下は走らない。」

「残念だね、てんちゃん先輩!これは競歩なんだよ!」

「明らかに両足の浮いた瞬間があっただろう?ロスオブコンタクトだぞ。」

「美心はてんちゃん先輩の心に対してロスオブコンタクトだよ!」

「どちらかと言えば僕はロストオブコンタクトだけどな。」

「おぉう、ロンリーオブコンタクト。」

「それで、今日コンタクトを取ってきた目的はなんだ?」


僕は諦めて天來の一人寂しいコンタクトに応じることにした。でなければまた一日中付きまとわれる可能性があるからだ。避けて通れぬ道ならば、早めに走り抜けるとしよう、競歩ではなく!


「目的ったらそりゃあ部員の事だよぅ!」

「部員?天來と竜西先輩、遊坐ちゃんと僕……あ…」

「そう!あと一人!」


そうか、部活は五人揃えなければ申請を出せないシステムになっている。あと一人、必要な訳だ。このまま見つからなければ御の字!と言った所だったのだけれど、今の天來の表情から汲み取るに、見つかったらしい。候補なのか確定なのかは定かでは無いけれど、相変わらず天來の瞳はキラキラと輝いている。その青黒く輝く瞳は底無しのブラックホールみたいに僕を飲み込もうとする。

この目に、この好奇心と純粋に満ち満ちた目に、僕が弱いことは周知の事実だ。


「僕はとりあえず反対なんて出来る立場じゃあ無いからな、せめて普通の子である事を祈るよ。」

「………可愛い子だよ!」

「可愛いと普通は同義語じゃあ無いだろう?」

「でも可愛いは正義!」

「確かに。天來、僕は初めてお前の意見に賛成できそうだ。」

「じゃあじゃあてんちゃん先輩!早速、今日の放課後!初等部の校舎前に集合だよっ!」

「はいはい、分かったよ。」


テンションが上がりピョンピョンと跳ねる天來の頭を軽く宥めるように撫で、僕はいそいそと教室へと戻った。この瞬間ばかりは天來とクラスが別で良かったと心の底から思わずにはいられない。あの馬鹿高いテンションで授業中もいられたら、それこそ授業どころか何にも集中できそうに無い。今は懐かしい2ヶ月ほどストーキングされていた頃は、気付けば隣の席に座っていたりして、驚いた事も多々あるのだが…それにしても天來は授業を真面目に受けていたのだろうか?全く想像が出来ない。クラスではどう過ごしているのだろうか?友達は遊坐ちゃん以外にもいるのだろうか?勉強にはついていけているのだろうか?

いや、あの性格なのだから大丈夫か…。

少なくとも僕なんかが心配するような天來では無いだろう。あれ?そう言えば天來の奴、放課後にに集合だとか言っていなかったか?

初等部…初等部…学生食堂…初等部…美少女…初等部…


「うわ………。」


どうやら僕が心配すべきは天來の学園生活では無く、僕の放課後だった様だ。ほら、だから言ったんだよ、二度あることは三度ある。一災起これば二災起こる、一難去ってまた一難と。

僕は軽く分かったと返事をした事を後世一生、後悔するだろう。

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超(虚言)自然現象部 遠藤 九 @end-IX

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