第7話「アンジャッシュ」 ~Tomorrow never knows~
帰りももちろん慣れない妻の運転だ。
車内には行きと違い、安心に満ちた雰囲気が漂う。
大変な病気だということ、
これから治療に専念しなければならないことなど、
問題は山積している。
だが、このときは、病名が判明したことが何よりも嬉しかった。
母が子どもたちの春休みに合わせて、
九州から来ることになっていたのだが、少し早めてもらおうと、急に思いつく。
母に電話を入れる。
「もしもし、上京の件なんだけど、早められないかな?」
「どうした?」
「今、病院の帰りなんやけど、しばらく治療しなければいけなくてさ」
「病院?」
母が驚く。
「肩こりとか首こりで調子悪いって言ってたと思うんやけど、首がおかしくて」
「具体的には?」
心配が電話越しからも伝わってくる。
「脳神経の機能異常」
「脳神経!」
母が声を上げる。
「それで、大丈夫なん?」
私の方も気持ちがはやる。
「土曜日に専門医に診てもらえるようになった。だから、上京早めてくれると助かる」
「調整してみるよ」
脳神経の機能異常ということに母の動揺が伺える。
「なんの病気なのかわかって良かったよ」
私は病名が判明した安心感から涙が思わず出てきた。
しかし、電話越しの母はそうは思っていないようだ。
私が絶望感で泣いたと思ったらしい。
これは後で知ったことだが、コミュニケーションは難しい。
アンジャッシュのコントじゃないがすれ違いが起こっていたのだ(笑)
涙が溢れてきたため、自分でも説明がよくできていなかった。
事態の把握ができたことを喜ぶ気持ちを伝えても、
母は、私が強がりを言っていると思い込む。
母を落ち着かせようと、懸命になればなるほど、
私と母の病名判明に対する思いがかけ離れていく。
そんなやり取りをしている内に家に無事に到着した。
※第7話副題
Mr.childrenの曲名より
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます