第3話「羽生善治」 ~玲瓏~

 日曜日は、千駄ヶ谷で子供たちの将棋教室があった。


 子供たちが将棋を習いたいと言い出してから、

 近所で通える将棋教室を探した。

 結局どこがよいのかよくわからなかった。

 それなら、将棋会館の教室なら間違いないだろうと、

 体験を申し込んだのが十二月だ。


 一か月待ったのち、体験教室を受講した。

 それから毎回、日曜日の早朝、車を運転して、教室に通っている。

 

 痛みを我慢しながら、いつものとおり、運転して千駄ヶ谷へ向かった。

 頭を背もたれに固定すれば、まだその時は運転できたのだ。


 将棋会館のこども将棋教室は、人気が凄い。

 この夏からは千駄ヶ谷の教室は、新宿の広い場所に移転する。


 今は本当に将棋人気だと実感する。

 将棋連盟のホームページには

「子供スクールは全校舎満員のため無料体験を一旦中止させていただいております。」と掲載されている。


 千駄ヶ谷には何か月かしか通えなかったが、

 羽生善治永世七冠が3階か4階あたりで、対局している日もあった。


 あの国民栄誉賞の羽生先生だ。

 

 当時、小学校一年生の長男ねこきちくんは、

 一月に入会して十四級からスタートした。


 千駄ヶ谷の将棋教室は、

 月に二回ある。

 長男のねこきちくんは、

 毎回昇級して、二月には、十一級になっていた。


 「三月の二回で、十級かな?」

 楽観的に考えていた。


 千駄ヶ谷の将棋教室は、十五級から十一級までは、

 「三連勝か四勝一敗」で昇級できる。

 ねこきちくんは、ほとんど無敗で昇級していたので、

 当然十級に上がるだろうと思うのが自然だ。


 しかし、世の中は、広い。

 井の中の蛙とはよくいったもの。


 十級への昇級は「四連勝か五勝一敗」

 結局、三月中に十級には上がれなかった。


 首を抑えながら、無事に将棋教室が終わった。

 どこかでお昼を食べて帰るのが、慣例だったが、その日は難しかった。

 

 首のせいで運転も危険と判断した。

 帰りは、妻に運転をお願いした。


 首はどんどん右に曲がろうとする。

 一体、何なんだ?

 不安だけが胸に広がっていく。



※3話目の副題について

 玲瓏(れいろう)とは、羽生先生が、

 揮ごうする際に、最近書かれている言葉です。

 意味は、「玉などが透き通るように美しいさま。また、玉のように輝くさま」だそうです。

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