第2話「ビートたけし」 ~半分、回る~

 おかしくなった私の首に限界が迫ってきた。

 

 首を抑えていないと、首はどんどん意思とは関係なく、

 右に傾き続ける。そうすると、今度は反対の左の部分が痛くなる。


 次の週末に病院へ行くことにした。

 そう決心した週は、割と大変だった。


 仕事の後に、予定が毎日のように入っている。

 火曜日には、誕生日を祝ってもらう予定があった。


 先輩がカウンターだけのお寿司屋を予約してくれていた。

 今思えば、贅沢な食事をしたのは、その日が最後になった(笑)


 先輩にビールを注ぐ時も、明らかにおかしさな仕草だ。

 コップを見ずに首を傾けながら勘で注ぐ。

 左が向けないのだから仕方がない。

 先輩が「たけし」みたいだな、と形容した。

 ブラックジョークだが、ことの重大さがわかっていなかったので、

 帰宅した後に、足立区出身の妻にそのことを話してお互い思わず笑ってしまった。


 いよいよ、金曜日まで来た。

 首のねじれを抑えながら、仕事を何とか頑張った。 

 その時は、まさか休職前の出勤最終日になるとは思いもよらなかった。


 結果的に出勤最後の日となった金曜の夜も予定があった。

 仕事でお世話になった人を労う会だった。


 席だけは、一番左にしてもらい、

 どうにか出席した。


 途中、首が痛すぎて、何度も何度も帰ろうかと思ったが、

 明日は土曜日。

 何とか耐え抜いて、二時間の会を無事に終えた。


 家に帰ると、ひどい苦痛と疲労感でくたくただった。

 自宅までの通勤時間は電車で二時間近くかかるので、

 帰宅した際には、子供はもう深い眠りの中にいる。


 妻は心配していたのか、起きていた。



 ※2話目の副題について

「半分、回る」は放送中の「半分、青い」からつけさせてもらいました。

 妻と子供を送り出したら、ちょうど8時頃。

 失聴を乗り越え奮闘するヒロインが活躍するドラマです。

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