奏でる先には 番外編
奏でる先には
リリィ・フローレンス誕生日記念小説
都会特有の雑踏と喧騒の波から逃れ、家庭用のものとは違う、専用の食器と金属のぶつかる音が鳴り響くカフェの中。
金色の髪をふんわりとふたつに結び、黒縁の四角い眼鏡をかけたリリィ・フローレンスが座っていた。今日彼女は、紫の花柄ノースリーブ、グレーのクロップドパンツを着ている。ゆったりとした、七分丈ほどの裾を切り落としたようなパンツだ。
その向かい側にはカトレヤ・ブリックが座っている。彼女は肩出しの黒いTシャツと、ダメージジーンズを着ていた。彼女がこのTシャツを着るのは珍しく、ショートの黒髪と赤い瞳をより格好良く引き立てていた。
「ねえ、カトレヤ。」
「なんですか?」
「今10時半だけど、午後誰かと用事でもあるの?」
カトレヤは顔には出さなかったが、内心ギクリとしていた。なるべくバレないよう、前々からこの服を彼女に会う時に着ていくこともあったからだ。
「何言ってるんですか、リリィと会う時にこの服を着ていったこともありますよ?」
「誰も服がとは言ってないよ?」
「服でこのあとの予定がわかるって、リリィが前に言ったんですよ。」
「(なんだ、引っかからないか。でも、妙に気合が入っているというか...何だろうな、なんか違和感がある...。)」
「で、何頼みます?」
「うーん、アップルティーにしようかな。カトレヤは?」
「私はカモミールにしようかと。じゃ、呼びますね。」
そう言ってカトレヤはテーブルにおいてあるベルを鳴らした。しばらくすると、そのカフェの店員がやってきた。
「アップルティーとカモミールティーをひとつずつ。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
カトレヤがスマホの通知画面に目を移すと、ある人物から、
「あとどれ位?」
と、メールが来ていた。
「10分くらい」
と簡潔に終わらせて視点をリリィの方に戻すと、若干ニヤニヤしていた。
「カトレヤがスマホを外で使うなんて珍しいね。」
「それが何か?」
「いや、別に。何見てるんだろうなって思っただけ。」
どうすれば本当のことがカトレヤの口をついてでるかリリィが考えてみても、彼女に口で勝てたことなど一回もなかった。勝てる人なんてきっと、世界に3人ぐらいだろう。
考え込んでいるうちに、注文をした時と同じ店員が、湯気の立つカップを2つ運んできた。
「どうぞ。冷めないうちにお召し上がりください。」
2人が紅茶に口をつけると、芳醇な香りが口の中に広がる。
「美味しい...!でも、よくこんなお店見つけたね。」
「ちょっとある人に教えていただいたんです。今度あったら、お礼を言わないといけませんね。」
紅茶を飲みながら、他愛のない話をするふたり。
丁度メールが送られてきてから10分たった頃、カトレヤのスマホが震えた。
「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきますね。」
といって、カトレヤは行ってしまった。
それにしても、誰からの電話なのだろう?約束していた人なら、電話はかけてこないはずだ、用事ができたなどでなければ。
13時からは旦那とのデートなのに、こんなこと考えていたら心配をかけてしまいそうだ。
誰なのか、何故なのかと考えていると、カトレヤが戻ってきた。
「すみません、ちょっとどうしてもやらなければならないことが出来てしまいました。ゆっくり話すつもりだったんですが。」
そういったカトレヤはとても悲しそうで、とても用事を聞ける雰囲気ではなかった。
「大丈夫。行ってらっしゃい、カトレヤ。」
それを聞くと、カトレヤは店を出ていってしまった。
「はぁ。デートの時間になるまで、何しよっかなー...。」
「お客様。ご注文の苺のミルフィーユでございます。」
いきなり声をかけられてビックリした。でも、
「え、私頼んでないですよ...?」
と言うと、店員さんは営業スマイルではなくて、心からの笑顔を見せた気がした。
「もう1人のお客様が、このミルフィーユとこちらを貴女へと。ごゆっくりお過ごしください。お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
出されたのは苺のミルフィーユと、ラッピングされた小さな手のひらサイズの箱だった。
びっくりした。カトレヤ、忙しくて忘れてたんじゃなくて、サプライズだったんだ。
苺のミルフィーユを口に入れると、
「美味しい...!」
と、言葉がこぼれる。苺の甘みに頬を緩める。そして、少しワクワクしながら小さな箱を開けた。
「…わぁ…!」
そこには、メッセージカードと、水色のブレスレットが入っていた。
メッセージカードを開くと、
□■□■□■□■□■□■
リリィ、私と出会ってくれて
ありがとうございます。
〜Happy Birthday〜
By Cattleya Brick
□■□■□■□■□■□■
と書かれていた。
「もう...ずるいなぁ、カトレヤ。」
「今日はリリィ、嬉しそうだな。」
「うん!だってね──。」
「良かったな、成功して。」
「ええ、頑張ったかいがありましたよ。」
END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます