丑三つ時のワルツ

狒牙

情報屋『皮算用』


 あら、いらっしゃい。一見さんが来るだなんて久しぶりだぁね。それも人間さんと来たもんだ。さてさて、支度でもしようかね。一杯目は何を飲むんだい? 何、酒を飲みに来た訳じゃないって?

 こんな場末の立ち飲み屋にわざわざ来て、何も飲まないたぁどういう了見なんだね。とまぁ、聞いてみたいところだけれど生憎ここがただの飲み屋と違うってな、わっちも理解しているところさね。

 とするとあんたが欲しいのは、あちらの世界に関する何らかの情報、と見て間違いないかね。ん、何だい何だい、それさえ否定するのかい。だったらわざわざここに何しに来たってんだい。

 情報は欲しい? どっちなんだいあんた。いい年した男がそんなうじうじした言い方するもんでないよ。聞きたい話ってのはどれだい? 最近だと戴冠式たいかんしきに関する話題なんかが熱狂してるみたいだぁね。

 孤独な雪女にするかい? 臆病者のサトリにするかい? 九尾のせがれの弱虫坊主でもいいさね。そのどれでもないって、じゃあどいつの話が聞きたいのさ。

 鞍馬弁天くらまべんてん? あいつぁ駄目だよ、ついこないだ戴冠式と関係ないところでのされちまった。半妖の小僧一人に、山の配下傘下全部まとめて封印されちまった軟弱者さ。……まぁ、相手が悪かったとは言えるがね。あれより強い妖なんて、世の中に何人いることだか。

 ……ん、てこたぁ待てよ。あんたが聞きたい話ってのぁそう言う……。あぁ、なるほど。ただ情報が欲しいんじゃなくてわっちに語り部を務めさせたい、と。しょうがないねぇ。

 そいじゃ、話してやるとするさね。わっちが狸だからって、決して化かされんじゃないよ。


 そう、これから語らうのは【禁忌きんきの子】の物語。またの肩書きを【真血しんけつ】と言う、京都に住まう高校生の物語さ。

 そうさね、この物語に名前を付けるとすれば、何と付けたものかね……。ふぅむ、よし、そうだ決めた。こんなタイトルが相応しいんじゃないかい。


 あやかしりの九十九つくも、ってね。

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