極夜
葉世 零
第1話 オレンジ
真っ赤に染まった夕日、それを映す川に苛立ちながら帰る道は、初夏にしては暑くて、そろそろバス通学にしようかなぁって考えていた。すれ違う親子は、綺麗な夕焼けだねって幸せそうな笑顔で話す。
あぁ、確かに綺麗だ。憎らしいほどに。
夕日に照らされて赤くなる自身の制服を、地面を、なるべく見たくなくて、早足で歩いていたはずの足は走るという選択肢に変えていた。帰りたい。暑い。眩しい。苦しい。
汗をかきながら走って家に着いた頃には、お母さんが晩ご飯にと作ったシチューが完成していた。
「おかえり葉月、どうしたのそんな急いで」
さっきまで苦しかった気持ちが晴れるかのように、母からの“おかえり”は安心した。
「ただいま、何でもないよ」
そういっても、お母さんは気付いている。
「そう。そろそろバスで通うよね?定期代はあげるから、あとで渡すね。」
「うん、明日からそうする、ありがとう。」
夏になる。夕日が怖くなる。毎年、夏になると徒歩通学からバス通学に変える。
じゃないと、不安になるから。
制服から私服に着替えると、もう外は暗くなりかけていた。夕日が沈み、オレンジから紫がかった空の色になっていくのを見て、落ち着いた。
母の作ってくれた晩ご飯は暖かくて、今日も一日頑張ったなぁって思える。
母が専業主婦で助かった。あんな気分のまいま、帰って家に人が居なかったら…、と考えるだけで不安になる。我ながら情緒不安定すぎやしないか?と思うほどに。
晩ご飯も食べ終わって、お風呂も済ませた。さて、そろそろかな。
極夜 葉世 零 @hase_52
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