第9話.実質ゼロ点
翌日、早速この魔法学校での授業が始まる。
授業はその日毎に校舎裏口の掲示板で時間割が知らされる仕組みであった。
時緒含め、同時期に入学した総勢六十二人は半数ずつに分けられ、それぞれ別々の授業を割り当てられる。こうして分けられた自身を除く三十人が時緒のこの魔法学校におけるクラスメイトというわけだ。
掲示板を確認すると、幸いアルメリアとフィルは時緒と同クラスに割り当てられていた。
授業は筆記試験の五科目に加え、魔術(講義)、魔術(実技)を加えた七科目になる。
そして時緒たちのこの日の一時限目は算術である。
魔術以外の授業に全く意欲の無い時緒は完全に二人任せだった。適当に付いて行く形で一時限目、算術の授業が行われるらしい教室Ⅺ(十一番教室)に入室する。
そして三人が席に着いて間もなく教師が入室した。
「算術」という中でも特に魅力の欠片も感じない教科に、時緒はせめて優しさに溢れる慈愛の体現ともいえる先生をと願ったが、事もあろうに、入室してきた教師は昨日時緒を入学式場へ案内したいかにも厳しそうな眼鏡の女教師だった。
女教師のその雰囲気に、明らかに室内の空気が変わったのがわかる。
「お前たちの算術を受け持つストレだ。今日は最初の為昨日の試験を返却しその内容にそって補足を行う」
項垂れる時緒の精神の回復を待たず、算術教師ストレは軽く自己紹介をすると、番号で生徒を呼び試験用紙を返却し始めた。
順番に生徒の番号を呼ぶ無機質な声が、何故か時緒の時だけ妙に力んでいるようだった。
着席位置は自由なので三人は例によって並んで座っている。
「まあまあですわね」
アルメリアは答案を堂々と机に曝け出していた。100点満点中96点。この世界の学力の平均を知る筈もない時緒だが、間違いなく高得点だということがわかる。
「フィル? あなたは?」
「68点……へへ、一番苦手科目なんだ……。平均点いくと良いな……」
フィルは自身の答案用紙を見ながら苦笑した。
「で? タイム、あなたは?」
アルメリアが視線を向けると時緒は答案用紙を持つ手を震わせている。
「すごい……」
その何かに戦慄するような表情からアルメリアは気になって時緒の答案用紙を覗き見る。
3点。
「すごい……」
「ええ確かにすごい点数ですわね……」
「すごい、3点ってことはどれか合ってた……」
「「そこぉ!?」」
二人は思わず声を荒げてしまうが、ストレからすかさず睨まれたので慌てて声を潜める。
「いい? タイム、試験ではゼロ点はあり得ませんの。仮に全部間違いでも3点は最低でもくださるのよ」
「え?」
「うん、あのねタイムちゃん。この国ではゼロは忌み嫌われる呪われた数字なんだ。それでね、この学校でゼロ点の人には守護獣サレホートにあやかって3点が貰えるの。ほら、校章にもなってるサレホートの角、ギザギザが三画で書けるでしょ? 守護獣に守って貰えるようにって意味らしいよ」
二人は声を潜ませたまま、時緒に説明する。
「ってことは…………」
「実質ゼロ点ってことですわね」
こうして時緒の異世界魔法学生生活は始まった。
(※実質)ゼロ点から始まる三条時緒の異世界魔法学生生活 了
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