例えば、三条時緒が異世界に召喚されたとしたら~中二病妄想少女の異世界生活~
所為堂 篝火
プロローグ
思っていたよりもずっと、色の少ない景色だと思った。
空を見上げれば、元いた世界と見分けはつかない。
静寂の中を乾いた風が吹き抜け、彼女は髪を揺らしながら自身の足元を一瞥する。
わたしは確かに〝ここ〟にいる。
ぴょん、と一回跳ねてみる。
すとん、と着地してざりざりと確かめるように足元を踏みめる。
そして呟く。
「重たい……」
軽くなると思っていた。
何ならそのまま飛んで行ってしまえるくらいに。
理由なんてものはない。
それは彼女が勝手に思い描いていたイメージでしかない。
もっと軽やかで、軽快で、自由で、自由自在で、縦横無尽で、傍若無人で、上手く言語化できるわけではない感覚だが、思い描いていたものはもっと自身を色々な枷から解き放ってくれるものである筈だった。
でも。
一度大きく深呼吸する。
身体の中に残る日常を吐き出し、この新たな現実を受け入れるが如く。
そして彼女は顔を上げる。
「
噛みしめるように静かに、けれども力強く、誰に聞かせるでもなく彼女はそう宣言した。
不安と喜び、期待と焦燥、様々な思考が綯い交ぜになったまま、叫び出したい衝動を抑え、代わりに拳を握った。
当たり前のような毎日が、他人に馬鹿にされながらも妄想にふけるしか逃げ場のなかった毎日が、この日終わりを告げた。
そのことを自覚し、しかし、しばらく握ったままの拳を震わせることしかできなかった。
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