第16話 合成獣 (明神 公人)
「……最悪だ」
僕の力は正面からの戦いには向かない。
二匹の生物を組み合わせる僕の能力と、力でねじ伏せる〈悪魔(こいつ)〉は相性が悪い。
ただですら、生物強度が足りていない僕の合成獣(キメラ)は、下手したら指で弾かれただけで倒されてしまう。
でも、苦手だとか言っている場合じゃない。
早くしないと継之介が出血多量で死んでしまう。
それだけは――〈悪魔〉に正面から挑むよりも願い下げだ。
倒した継之介を、不要物を捨てるように放り〈悪魔〉が言う。
「はっはっは。どうした? お前ら〈プレイヤー〉なんだろ? 『ボス』から話は聞いてるぜ? お前らを倒すために、わざわざ近くで暴れてやったんだ! この牛岩(うしいわ) 縁(えにし)さまがお前たちを倒してやるよ!」
そうか――。
こいつは最初から僕達を狙って暴れていたのか。
誘き出すために……。
事務所として〈悪魔〉を専門にしていると謡っている以上、当然、僕達の素性を知り狙ってくることは考慮していた。
それでも、今まで無かったのに、何故、急に……。
「今はそんなことは、どうでもいいんだ」
継之介を助けることだけを考えなければ。
舗装された道路の上を、継之介の血液が流れていく。
「例え弱くても、戦い方はいくらでもあるさ」
合成獣(キメラ)として、組み合わせる生物には条件がある。
それは、僕が生物としての特徴や生息地を理解しているかどうか。つまり、僕の知識が広がれば広がる程、より、細分的に突出した力を合成獣(キメラ)に持たせることが出来る。
戦い方を変えれば弱点を補うことが出来る。
僕は自分で作成した専用の図鑑を思い浮かべ、その中から二枚のページを選択する。
最初に選んだのは「ミイデラゴミムシ」
強烈な匂いのあるガスを噴出する昆虫。
そして組み合わせる二匹目に選んだのは「マダコ」。
言わずと知れた代表的な蛸(たこ)である。
意識の中で二枚のページを丸め、祈るように両手を掲げる。すると、僕の頭上に光が集まり、合成獣(キメラ)が生まれた。
頭部、胸部、腹部の三つに分かれた昆虫の身体から、左右4本ずつの触手が生えていた。吸盤に覆われた脚を揺らしながら〈悪魔〉に近づく。
「いけっ!」
「うわ、なんだよ、こいつ。気持ち悪っ。さっさと殺すか」
人間大の合成獣(キメラ)を気味悪がりながらも、両手で二tサイズのトラックを持ち上げ、叩きつぶそうとする。
巨大な車体で潰さなくとも、普通に叩くだけでも消滅するんだけど……。
しかし、相手が何をしようと攻撃を受けなければ消失することはない。
そのために、「ミイデラゴミムシ」と「マダコ」を選択したんだ。
合成獣(キメラ)の腹部から、強烈な匂いを放つ黒い煙幕が噴き出す。辺り一面が黒い煙に覆われ視界を奪う。
「ミイデラゴミムシ」が持つ悪臭のガスと、蛸が持つ墨を混ぜ姿を隠す煙を張ったのだ。戦う為ではなく、足止めするための合成獣(キメラ)。
「なんだよ、これ……。クセェし前が見えねぇ!! おい、どこ行きやがった!!」
叫ぶ〈悪魔〉の脇をすり抜け、倒れた継之介の横に移動する。
〈並行世界〉では、僕達の身体は強化されている。その影響もあってか、本来なら即死するほどの傷を負っても、まだ、継之介の息は途絶えていなかった。
「もう少し堪えてくれ……」
継之介に声を掛けて、合成獣(キメラ)の背中に乗せる。闇雲に煙幕の中で暴れている〈悪魔〉に勘付かれないように、戦場を離れる。
煙幕が晴れる頃には、視界に映らない場所まで逃げることができた。
後は、継之介の怪我を直すだけだ。
多少の傷を塞ぐことならば、生物の力で出来なくもないが、これだけの傷を治すことは残念ながら不可能だ。
しかし、僕達に与えられているのは、何も自分達の能力だけではない。
「〈ポイント〉を使って回復を……」
僕と継之介は〈悪魔〉が現れた現場に向かう時は必ず端末を持ち運んでいる。
それは、こういった場面を想定してのことだった。
〈景品〉には『情報』や『人間』だけではなく、様々なジャンルが載っている。『武器』なども記載されているが、能力だけで倒せる現状での必要性は低い。
画面を下にスクロールさせると、『回復』という項目が現れた。
必要な〈ポイント〉は5Ptと高いが――迷ってはいられない。
『回復』を指で触れると、頭上から液体が入ったフラスコが落ちてくる。僕は落とさないように両手で掴み、先端を蓋しているコルクを抜いた。
薄緑の液体を継之介の傷に注ぐ。腹部に空いた傷口の淵から水泡が「じゅくじゅく」と音を立てて、穴を塞いでいく。
十秒立つ頃には、継之介の怪我は完全に癒されていた。
「良かった。これで取りあえずは安心だ」
継之介の怪我が治るのは有難いことだが、しかし――こんな液体を生み出すことが出来るとは、〈
〈並行世界〉に連れて来られている時点で、異様なのは分かってはいる。
だが、こうして与えられた力を使うと、改めて痛感させられるのだ。
――僕達は〈
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