第11話 見失わない目的 (黒執 我久)
「やるなら早くやれよ」
隣で能力を解除した正大 継之介と明神 公人を横目に僕は言う。戦うための力を解除した二人が僕には到底理解できなかった。
なんで能力を解除しているんだよ?
なに、大人しく〈悪魔〉に従ってるんだよ?
まさかとは思うけど、知りもしない女子高生たちを助けるために自らの力を解除したのか?
こいつらの〈ポイント〉に対する思いはその程度なのかよ。
助けたい人を思う気持ちはその程度か。
僕は違う。
見知らぬ〈並行世界〉の人間なんか――どうでもいい。
本当に助けたいものを見失いたくないからね。
竜人の姿を保ったままの僕を、明神 公人が睨んだ。
「やっぱり君も同類か……」
同類……? 僕と誰が同じなのだろうか?
一瞬だけ考えたが直ぐに答えは出た。
ああ、なるほど。
力は解除しても、こいつらもまだ、完全に〈ポイント〉を諦めているわけじゃないんだ。
なんだ、能力を解除したのも作戦の内なのか。
だとすれば、人質を利用した方が、〈ポイント〉を手に入れられる。
「善は急げ……だね」
僕はそう判断して攻撃を行う。
この状況で変に裏をかいた動きやトリッキーな攻撃で虚をつくより、強化された僕の肉体で突っ込んだ方が速い。
人質を抱える〈悪魔〉に、正面から僕は駆ける。
僕の行動に〈悪魔〉は困惑しているようだ。
人質がいる状況で真正面からの攻撃を、本当に僕が行うのかと迷っているのか。
〈悪魔〉のくせに変な所で迷ってるな。
迷う位なら人質なんて取るなよ。僕が取る行為なんて決まってるじゃんか。そんなの――人質ごと殺すに決まってる。
右手の鱗を鋭角化させて拳の威力を高める。
僕の拳が中心に捉えられた女子高生ごと貫こうとした時――
「なっ……」
〈悪魔〉の身体が大きくブレた。
背後から「なにか」がぶつかる。それは僕と正大 継之介との戦いでもあった彼女――春馬 莉子の妨害だった。
彼女の能力は『高速移動』。
竜の瞳を持つ僕ですら、かろうじて動きを終える速度を持っている。当然、普通の〈悪魔〉や正大 継之介たちには視認はできないだろう。
だけど――この状況で邪魔するなんてなんのつもりだ?
いや、答えは簡単だ。
僕に〈ポイント〉を取られないように邪魔しただけのこと。
大きくバランスを崩した〈悪魔〉は女子高生たちを捕らえていた腕が緩んだ。
「それなら――」
僕は女子高生達を〈悪魔〉の腕から引き寄せる。そしてその勢いを利用して回し蹴りを放つ。踵についている鱗は、鋭い剣のように変化していた。
一振りの剣(つるぎ)と化した蹴りが〈悪魔〉の首を貫いた。
「な、なにをした……?」
どうやらこの〈悪魔〉は妨害したのが僕だと勘違いしるようだ。
死ぬ前に教えてあげたいのだが、僕は正大 継之介と違ってベラベラと不要な情報を相手に漏らすことはしない。
秘密主義の人間だ。
「さぁ? 僕には分からないよ」
僕の言葉を聞き終わらぬうちに〈悪魔〉が消えていく。
例え、僕が莉子ちゃんのことを告げていたとしても、〈悪魔〉は最後まで聞けなかっただろう。
……だったら、質問するなよな。
でも、これで〈ポイント〉は僕のモノだろう。
争いに巻き込まれた女子高生たちが叫び声を上げて一目散に逃げていく。彼女たちはここで起こったことは誰に言うでもなく、日常に戻るのだろう。
口にすれば殺されることは知っているのだろうから。
ま、折角、助けた命なんだから、むざむざ捨てる真似はしないで欲しいな。
「さてと」
あと残っているのは、正大 継之介と明神 公人か……。
うーん。
なんか、〈ポイント〉手に入れたら、今、この2人はどうでもよくなってきたぞ? 僕としては今日は見逃すから、さっさと帰れと言いたいけれど、彼らは違うようだ。
正大 継之介が炎を纏って僕に構える。
戦う気満々の表情だ。
「お前……。一体、なにをした?」
「なにって、見ての通り〈悪魔〉を倒して〈ポイント〉を手に入れたんだけど?」
最初から宣言していたから、そんな目で睨まなくてもいいじゃないか。
だが、正大 継之介が言いたいのは〈悪魔〉を倒したことではなく、「その前だ! 俺と戦ってた時も、いきなり「なにか」がぶつかってきただろう……!」莉子ちゃんのことのようだ。
「そんなの、わざわざ教えるわけないじゃん」
敵に塩を送る真似はしたくない。
僕がなにも答える気はないと知ってか、正大 継之介は纏う炎の火力を上げた。
いつまでも、この場にいると面倒くさいことになりそうだ。僕は地面を殴ってコンクリを隆起させる。土煙とコンクリが舞い僕の姿を隠す。
「じゃーねー! 今後とも僕の邪魔をしないようにお願いね」
跳躍を繰り返した僕は、廃校舎に戻った。
◇
「おっかえりー」
廃校舎のいつもの教室に入ると、莉子ちゃんが僕を出迎えてくれた。彼女もあの場にいたはずなのに、もう帰ってきていた。
にしても、〈ポイント〉は僕が貰ったはずなのに随分、機嫌が良さそうではないか。
それはもしかして彼女が身に着けている、宝石やバッグに起因しているのか。〈悪魔〉が集めていた倉庫から少しばかり――いや、正確に言うとかなりの量だ。どうやら、登場が遅れたのはこの荷物を運んでいたかららしい。
〈ポイント〉よりもブランド品を身に着ける彼女を、僕は軽蔑する。
僕と莉子ちゃんが共に行動するのは、あくまでも〈ポイント〉を効率的に集めるためだ。それなのに、目の前の〈ポイント〉よりも金品に目が眩むなんて考えられない。
こうなったら、手を組むのは止めようかと考える僕に莉子ちゃんが言う。
「あ、ねえねえ。今回の〈悪魔〉、(ポイント)ナンポイントだったー?」
「まだ見てないよ。僕は端末は持ち歩かないんだ」
戦う時に邪魔になる。
それに、そんなことを一々莉子ちゃんに言われなくても、帰ってきて一番に確認するつもりだった。
端末の電源を入れ、表示された〈ポイント〉を確認する。
僕が手にしている〈ポイント〉は1。
莉子ちゃんから貰った分しか表示されていない――つまり、今倒したばかりの〈ポイント〉が増えていなかった。
「え、なんで――」
僕が倒したはずだ。
何度も画面を切り替えて確認するが、一向に増える気配はない。そんな僕に莉子ちゃんがジャラジャラと金色のネックレスを揺らす。
「分からないなら教えてあげようか? 今回の〈悪魔〉はなんと、5ptだよ!」
「莉子ちゃん……。まさか」
「そ、そのまさかだよ。質問の最中で姿を消したのは私が止めを刺したからでしたー!」
莉子ちゃんが「ぷっぷー」と口に手を当てて笑う。
そりゃ嬉しいだろうな。
それだけのブランド品や宝石を手に入れて、しかも、〈ポイント〉も増やしたのだ。今回の戦いで莉子ちゃんは得しかしていない。
莉子ちゃんを睨む視線に自然と力が込められる。
「油断したのが悪いんだよー!!」
「……分かってるよ」
〈悪魔〉を見つければ、後は文句なしの早い者勝ち。
互いにどれだけ利用し合っても、文句は言わない。それが、僕と莉子ちゃんが手を組むときに誓った約束だ。
莉子ちゃんはそれを守っただけのこと。
「はぁ……」
僕が景品に表示された『人間』を助けるのは、まだだいぶ先のようだ。
今回は莉子ちゃんに一本取られてしまった。
莉子ちゃんを軽蔑する権利は僕には無かった。
「あ、そうだ」
僕はわざとらしく端末を掲げて〈ポイント〉を見せつける莉子ちゃんに呟いた。あくまでも独り言のように。それでいて彼女に聞こえるギリギリの音量でだ。
「こうなったら――僕の秘策を試してみるか」
「え、なに! なに!!」
素早い動作で僕に詰め寄ってきた。
莉子ちゃんは僕の呟きを聞き逃さなかったと。今の莉子ちゃんは、僕を出し抜き得意げになっているのだろうから――こう来ることは予想できた。
これも作戦の内だ。
素直で純粋、それでいて姑息な所は姑息な、実に人間らしい彼女である。
多少、わざとらしい方が莉子ちゃんは引っかかる。
聞かれてしまったなら仕方ないと大袈裟に顔を抑えて僕は言う。
「明神 公人のことなんだけど――」
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