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「へぇ・・・その方はご自分のお店を?」

「えぇ、個人ではなく共同ですけれど」

 学生時代からの友達と一緒に店を作ったと言っていた。最初は本当にいろいろ大変そうだったけど、今では予約待ちの人気店だ。

「そう、ですか」

 やっぱり興味あるのね? ジュンさんは俺よりも少し年下くらいで、多分店では中堅って感じのポジションだと思う。新人ではないけれどベテランとまではまだいけない、みたいな?

「どうして独立しようとお考えに?」

 まだ悩んでいると言いつつも、背中を押すと強い力で踏ん張っているような感じがしたから。どうして独立しようなんて。

「あ、あぁ、えっと・・・」

 言いにくそうにそんな言葉を並べて頭を掻く。少し緑がかった髪が照明に照らされてキラキラと光る。

「実は、今の店長が独立したのが今の俺と同じ年で。だから俺も頑張れば独立出来るかなって思って。その、だから」

「ジュンさんも独立しようかな、と?」

「はい・・・あの、こんなこと訊いたら失礼かもしれませんけれど、マスターはどうして独立しようと思ったんですか?」

 不安が少しだけ混ざったような顔でジュンさんは訊く。俺の場合は参考にはならないよ。「私は師匠が店を閉めることになったので、その流れで独立することにしましたから」

「そう、なんですね・・・でも、怖くはなかったんですか? 務めていたお店が閉まるからって独立するのは」

 もちろん他のバーに就職し直すことも案としてはあったけどそれは選ばなかったな。いや、正確に言えば考えなかった。

「師匠が、もうお前は一人で大丈夫だと言ってくれたので」

 だから自然と独立することだけ考えていた。今思うとかなり楽観的だったとは思うけど。

「そうでしたか」

「すみません、参考にならなくて」

「いいえ」

 俺の言葉に即答したジュンさんはどこか吹っ切ったように言った。

「勉強になりました。俺は多分、まだ独立すべきじゃないと思います」

「え?」

「迷っていたのは本当です。でも多分、それは今の停滞した雰囲気がそう思わせていたんだと思います」

 それからジュンさんはいつものように少しあどけない笑顔で続けた。

「まだ俺は店長の下でいろんなことを経験したいし、勉強したいなって。独立するのはそれからでも遅くないですよね」

「えぇ、遅くないと私も思います」

 人は悩む生き物だ。答えが決まっていてもいなくても悩むものなんだから仕方ない。けれどその答えを見つけられたのなら、目指す道を見つけられたのなら、あとは一歩を踏み出すだけだから。

「応援していますよ」

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