悩みのタネを咲かせれば
カゲトモ
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バーに来るとき、そういうときっていったいいつだろうか。
美味しい酒を飲みたいとき、一人でゆっくり時間を味わいたいとき、しっとりと仲を深めたいとき、心の傷と癒したいとき。
人それぞれ様々な事を抱えながらバーの扉を開いていると思う。そのなかで一番多いのはやはり、話しを聞いてもらいたいとき、だと思う。または誰かに相談したいとき。
「実はちょっと考えていることがあって」
今夜そうやって切り出して来たのは、個性的な髪形が印象的な美容師のジュンさんだった。
「考えていること、ですか?」
「はい、まぁ最近考えたことじゃなくて、実は結構前から、なんですけれど」
焦らす様にロンググラスの中身を揺らして混ぜてみせる。なに、どうしたの?
「俺、独立しようかと思っていて」
結局視線を合わせないままジュンさんは言った。
独立? いいんじゃない?
「そ、そんな簡単に言わないでくださいよッ」
「申し訳ございません」
そんな簡単に言ったつもりはなかったんだけどな。そう聞こえたのならごめん。でも、
「ずっとそう考えていらっしゃったんでしょう?」
「う」
決まりが悪そうに一瞬合った視線をまたふいと外す。これはこれは。
「それはそうと、マスターの今の髪形、良いですね」
「ありがとうございます。同級生が美容師で、彼に切ってもらったんです」
がらり、と話題を替える所を見ると本当は独立したくないのだろうか?
「へぇ、そうなんですね。とてもマスターのお顔に合っているというか、爽やかで清潔感があるのにおしゃれで素敵です」
「ありがとうございます。全て彼に任せたので、そう言っていただけると私も嬉しいです」
そういうのセンスがないからね、俺は。髪を切りに行っても『いつもと同じ感じで』がデフォだし、これは本当に彼のセンスに任せたから。カラーもすすめられたけど、それは手入れが面倒だから断った。
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