シーと手紙

ユッキー

第1話




昨日、部屋の掃除をしていたら、偶然、むかし使っていたカバンの中から、赤い水玉模様の小さな白い封筒を見つけました。

中には、同じ赤い水玉模様の白い便箋が1枚入っていました。



ゆっき〜 へ


それはなんと美沙からの手紙でした。

便箋1枚、ぎっしり書かれていました。

バレンタインディに、チョコレートと一緒に添えてあった手紙です。

こんな手紙を、美沙からもらっていたなんて、すっかり忘れていました。

まったく覚えていませんでした。



ゆっき〜 へ

今日はバレンタインディだから.

チョコを作ってみたんだ!いつも、お世話に

なってます。ゆっき〜と逢って3年目かなっ?

長ぃネェ 〜!テニス頑張ってたり、悩んだりしてたり、アタシもすごくゆっき〜に助けられたり、ハゲまされたりで感謝でいっぱいだよ。これからも、お互い助け合いながら、前に進んでいけるといいネ。。体が一番大事だから気をつけながら、過ごさないと!!

アタシも昼の仕事どうするか分からないケド

一ヵ月はスポーツ店やってみるよ!その間にインテリアの仕事見つけようと思うの。。。

とりあえず.20才スギて水商売はしたくないからネ!

ゆっき〜もテニスとかヘアケアとか楽しい事があるからこそ今の仕事も頑張っていこう

チョコの味の保証はできないから一応市販のチョコも入れといたからネ。甘いのニガてでも一年に一度だと思って食べてみてね



最後の文字のあとに、ダックスフンドに似た1匹の犬のイラストが、描かれていました。



美沙は、わざわざバレンタインディに、チョコを手作りしてくれたんだ

しかも、味の保証ができないからって、市販のチョコも入れてるなんて


びっくりしました。

そして、美沙らしいと思いました。


※ハゲまされたりの字が漢字でなくて、カタカナのところは、苦笑してしまいました。


そうだ美沙は、インテリアの仕事を目指していたんだ


ほんとに忘れてしまっていたことが、蘇って来ました。


たしか、美沙と私の変わったお付き合いは、平成15年から7年ぐらい続きました。

今から思えば、ほんとに長い付き合いでした。

その間も、それほど日を開けないで、頻繁に逢っていました。

そして、東日本大震災の前の年に、黙って消えてしまいました。

大震災の時、彼女が大丈夫だったのか心配になりましたが、知るすべはありませんでした。



美沙は、彼女なりに懸命に生きて、自立した人間になりたいと思っていました。

母親との2人暮らしのため、夜まで働きながら、夢を持っていました。


今頃どうしてるかな?


彼女との想い出は、懐かしく楽しいことばかりです。

ケンカも、1度もしたことがありません。

お互い尊重し合い、思いやりを持って付き合っていました。



そういえば、クリスマスイブが近づいた頃、美沙は、CHANELのバックが欲しいと、言い出したことがありました。

夜働いている同僚たちが、少なからずCHANELのバックを持っていて、彼女も憧れていたのだと思います。


2人で、仙台三越の1階にあるCHANELへ行ってみました。

美沙は、とても目を輝かせていました。

彼女なりのこだわりがあって、理想のCHANELバック像がありました。

そして、いろいろ見させてもらって、1つだけ気に入ったものが見つかりました。


いくらですか?


数十何万円でございます


やっぱり高いなー


やはりCHANELでした。安いものがあるわけありません。

でも美沙は、とても気に入って、どうしても欲しいようでした。


今日は見るだけだから


ええ


私は、彼女を促して店を出ました。

やっぱり美沙も、普通の女の子なんだと思いました。

やはり、ブランドのバックに憧れるんだと思いました。

そして、なんとかしてあげたいと思いましたが、ちょっと高過ぎました。


少し考えよう


ええ


いつものあはは、がありませんでした。



クリスマスイブが近づいて来ました。

でも私は、まだ決心がついていません。

喜ぶ顔を見たいと思いましたが、地団駄を踏んでいました。

すると携帯に、美沙から着信がありました。

少し弾んだ声でした。


ゆっきー

お願いがあるの

この間見たCHANELのバック

私も半分出すから残り出してもらえない?


え?

半分?


ゆっきーにぜんぶは悪いから

私も半分出すから

お願い


……


ゆっきー

お願い


その日仕事が終わった後、CHANELへ行きました。


半分ずつ

はい


美沙も、ずっと貯金していたお金を下ろして来たんだと思います。

苦労して貯めたお金だったはずです。

でも彼女は、とても嬉しそうに待っていました。

とてもけなげに見えました。


ゆっきー

ほんとにありがとう


美沙は、CHANELのバックが入っている手さげ袋を受け取りながら、満面の笑みでした。


あはは

やった


その後の私の誕生日の前に、私はほんの冗談のつもりで、GUCCIの腕時計が欲しいと、呟いたことがありました。

すると美沙は、ほんとにGUCCIの腕時計を、プレゼントしてくれました。

びっくりしました。

CHANELのバックの、お礼のつもりだったのかもしれません。



美沙が、さよならも言わずに消えてしまって、もう何年も経ちました。

その後、東日本大震災があり、交通事故に遭い、強迫性障害にもなりました。

昨日、見つけた美沙の手紙は、ほんとに懐かしく、彼女のことを想い出させてくれました。


今日は、美沙が1番好きだった、Libera(リベラ)のFar away(彼方の光)を流しました。

ちょうど愛犬シーズーのシーが、ベットの上で伏せていて、いつものようにじっと聴いてくれました。




まだまだ美沙との想い出は、たくさんあります。

美沙が、しあわせに生きていることを願うとともに、この拙い小説を読んで、Libera(リベラ)のFar away(彼方の光)、を想い出してくれたらと思っています。





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