さくらリンケージ

トウミ コウ

第1話 スクワッター

群衆から笑い声があがる。

学校の朝礼の形式で、いろいろな人々が並んでいる。

「はーい!両手を開いて左右にひろがって」

一段高いところにいるショッキングピンクのトレーナーが叫ぶ。

見渡すと、一緒に来たサツキとのあいだに知らない若者が2、3人混じっている。

リズミカルな低音が響く。

タンタンタタタ・・・

タンタタタ・・・

「いきますよー!」

トレーナーのピンク氏(仮称)のテンションだけは異常に高い。

(でも、そういうのきらいじゃない)

隣の男の子2人組は大きな音にまけないようにか

顔をくっつけあって楽しげに話しをしている。

至近距離にいるのにちっともこちらは見ないし近づかない。

(可愛い娘にまったく興味なしって感じが今どきっぽい)

みぃは諦めたような感覚でそれを眺める。

正直、自分の美貌はかなりのレベルだと思う。

スタイルだって悪くない。

でもこのご時世、だれも女子にお誘いはしないものらしい。

(少子高齢化って、そりゃそうなるに決まってる)

「手をあげて!ぐるぐる回して 1・2・3!!」

ピンク氏の絶叫はむしろ心地よい。

(こんな真っすぐな命令は、ここのところ聞いたことがない)

タンタタタタタ・・・

タッタカタッタカ・・・

どこか懐かしいような単調なリズムにあわせて

群衆が左右に簡単にステップを踏む。

ちょっとした手の動きで何かを表現する。

宵闇に焚かれたかがり火が平凡な公園を神事の舞台のように彩る。

人びとの影が満開の桜の花びらに官能的にゆらめく。

(楽しかった)

みぃは笑顔の自分に驚きながらダンスの終わった宵闇を見渡す。

サツキが笑いながら、近づいてくる。

「どうだった?よかったでしょ」

スマホで撮った写真をみせてくる。

「今日のはイケメンだよ!」

積極的な逆ナンで、お好みの男子の連絡先をゲットしたサツキは

いつも以上にイキイキしている。

スマホが光る。「あ、連絡きた。」

向こうも積極的な男子のようだ。

「2人でまってるって。行こうよ!」

スクワッターでレコメンドされたイベントに参加するのは

はじめてだったが、悪くない、と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る