最弱魔法の錬金術(アルケミー)

Mr.mikel

プロローグ

プロローグ~運命の物語~

暗く湿った道が続く広大なダンジョンを、黒髪の少年は走っていた。

ーーーーーこのままでは間に合わないか・・・・

学院の制服を靡かせ、ただひたすらに走っているが、目の前には数多の敵が立ちはだかる。

しかし、その敵を、通常魔法ブースト派生上位魔法アクセルによって強化した足で蹴散らし、飛び越え、時には壁を走りながら先へと進む。

少年は今、とある目的のために、学院で出された試練を受けていた。

試練の内容は、規定時間以内にダンジョンの最奥にいるダンジョンマスターを倒し、

【輝きの羽根】というアイテムを獲得するというものだ。

その規定時間は、たったの三十分。

通常、最奥へ行くのに歩いて二日ほどかかるこのダンジョン。

今回の試練での禁止されている魔法などは特にないため《ブースト》でさらに身体を強化して、一気に駆け抜ける。

ただでさえ、《アクセル》という音速を越える加速をもたらす魔法を使っているのにも関わらず、

身体能力を上げる魔法を使ったのだ。

少年の通りすぎた道には亀裂が入り、足場に使った岩は粉々に砕け、激しく砂埃を舞わせている。

地を駆け、宙を舞い、目にも止まらぬ速さで洞窟内を疾駆するその姿は、まさしく"化け物"。

だが、そのようなことは少年にとって些細なことであった。

この試練を一番にクリアした暁には、

学院側から【インビジブルスパイダー】という魔物から取れる糸で作られたローブが贈られるのだ。

そのローブをこの少年が欲しがる理由とはーーーーー

「あのローブを手に入れて、俺は女子風呂に忍び込むんだ!!」

欲望が駄々漏れである。全く、このエロガキときたら。


少年のトップスピードで進むこと数秒。

呆気なく最奥のダンジョンマスターがいる部屋へと到達してしまう。

とてつもなく不純な動機を抱え、ダンジョンマスターへ挑もうとしている

このエロガk・・・・少年。

実は、この物語の主人公。




そしてこれは、その少年の少し先の未来の話である。



どんなに苦しても、どれだけ必死に足掻いても、思い通りにいかないことはいくらでもある。

それを「才能がなかった」と、一言に片付けられることもあるだろう。

「そういう運命なんだ」と終わることもあるだろう。

それを、俺は許せなかったーーーーー


非才が成り上がる様を、運命というものを覆すところを見せつけてやろう。



・・・・・・そう、夢の中で呟いた。



ある日の朝、篠原アラタはいつものように朝食を取りながらニュースを見ていた。

「昨日未明、市内の3丁目で通り魔事件が起きました。」

全く、物騒な世の中になったもんだ。

近頃市内で通り魔事件が多発しているようだ。

というか、三丁目ってすぐそこじゃないか。

「なお、犯人は未だ逃走中の模様。近隣の住民の方は十分気を付けてください。」

十分気を付けてくださいって・・・他人事かよ。

まぁ、そうそう巻き込まれることもないだろうが気を付けておくか。

「今入った情報です。犯人は40代前後の――――」

何か言っていたようだが、そろそろかな。

そうしてアラタは時計へと視線を移す。

「登校する時間だな。」

準備して行くか、そう思ったとき玄関からインターホンの音がした。

「こんな朝早くに・・・・誰だろう?」

はーい、とお決まりの返事をしながら玄関へと向かう。

宅配頼んでない、新聞も取ってないし。

靴を履き、ためらう余地もなくノブへと手をかける。

「やぁ、おはよう」

ドアの前に立っていたのは、恰幅の良い中年の男だった。

「は、はぁ。おはようございます」

知らない人だな、父さんの知合いかな?

「お父さんかお母さん居る?」

「両親は今不在ですけど・・・・」

今日は父さんと母さんの結婚記念日だ。

俺は学校があるということもあり二人で海外旅行に行っている。

一週間ぐらいは帰ってこないだろう。

「そっか~。そりゃよかったよ。」

よかった。どうしてそんな言葉が出てきたのだろう。

不思議に思っていると、男は腰のあたりから何かを取り出した。

そしてそれを勢いよく俺に振りかざす。

「ぐっ・・・・・・!?」

胸のあたりに何かを突き付けられた。

これまでに感じたことがないような激痛が全身を駆け巡り、脳が刃物で刺されたということを認識する。

「ぐはっ・・・・ど、どうして・・・・」

口から溢れる血に戸惑うアラタは現状を把握するため必死に頭を回転させた。

そして数瞬の間を置いてやっと理解する。

なるほど、こいつが例の通り魔か。

アラタは驚くほどにい冷静だった。

「どうしてだって?んなもん決まってんだろ?テキトーだよ。テキトー。」

テキトー・・・・そうか、僕はテキトーに目を付けられ、そして刺された。

つまりはついてなかったってことか。

父さんや母さんは家にいない。

近所の人たちはまだ起きていないだろうし、見つかった時にはもう死んでいる。

俺はその身に迫るものをはっきりと感じていた。

そこにあるのは"死"であるということを。


ーーーーーはは、なんだよ。死ぬのって結構あっけないじゃないか。


視界が暗く陰っていく。

そんな時――――

『このようなところで終わってもいいのか?』

どこからともなく声が聞こえた気がした。

薄れる意識の中、目の前にいる男以外の何者かが話しかけていることが分かる。

『そなたは、"生"を欲するか?』

それは単純明快で僕が最も望むこと。


ーーーーーあぁ、できることならね。


そんな叶わぬ願いを願ったところで何も変わらないことは自分でも分かっている。

だが、その声の主は俺の期待を裏切るような答えを返してきた。

『よかろう、その願い新たな生で叶えるといい』

俺の意識はそこで途絶えた。

「せいぜい、自分の運命でも呪うんだな。

お前はこれから修羅の道を歩むことになる。」

男は手を拭いながらその場を去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る