武上 晴生

「真っ暗だね。」


不思議そうに、呟く声が聞こえた。

振り返ると、まだ小さな少年が、じっと天を見つめて立っている。

私も液晶画面から顔を上げて、同じ方向に目を凝らしてみた。



──光り輝くビル群の合間、星は溺れて姿を消し、真っ黒な平面だけが空であった。



「でも」

私は少年を見た。

「星は見えないけれど、光はたくさんあるし、明るいよね。」


呟いて、また目線を落とし、少年をあとに歩き出した。

ブルーライトの光がいつになく痛い。


急に、裾をぐいと引っ張られる感覚を覚えた。


少しびくっとして振り返ると、少年が、拳を握りしめ、俯いていた。


「光なんて、」


微かに潤う目が、こちらを向く。


「光なんて、ないよ。」

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武上 晴生 @haru_takeue

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